第27章 翔ぶ
「いえ…、そうじゃないんです」
……私にプロポーズしてくれた時点でレイさんが身分の差など気にしていないことはわかっているわ。
そうじゃないの、いくらレイさんが気にしなくてもご両親やご親戚、他の貴族の方や使用人の方も。
レイさんが文句を言うなって言えば言わないんだろうけど、でも心では反対しているってことじゃないの?
……そんなの嫌よ。
「公爵家次期当主のレイさんが連れてきたお嫁さんなら、きっと誰もが笑顔で迎えると思います…、表向きは。でも陰で悪く思うのじゃないのですか? トロスト区のレストランでもそうだったけど私はマナーも知らないし、とてもじゃないけど王都のお屋敷でやっていける自信はありません」
「………」
レイの胸は鋭利な刃物を突き立てられたように痛む。
考えてくれと言っているのに、団長に許可をもらったと言っているのに、これでは即刻拒否と同じじゃねぇか。
でも、これくらいでくじけては駄目なんだ。
あの何もかも見通したような碧い目をしているエルヴィン団長だって言っていたじゃねぇか…。
“未来は不確定だ。いつだって誰にでも、どんなことも起こり得るからね。だから私は、私に今できる最良の判断をするだけですよ、レイモンド卿”
そうだ、そのとおりだ。
オレにできることは一番正しい判断をして、それを実行に移すこと。
今はマヤに前向きな返事をしてもらうために、少しでもある不安は消さないと。
「オレはマヤに嘘はつきたくねぇ。だから正直に言えば、マヤの言うとおりだ。みんなオレの前では決して文句は言わねぇし、マヤを歓迎するだろうよ。でも内心ではそうじゃないやつもいるに違いねぇ。マヤが貴族じゃないことも、マナーを知らないことも、隠れて笑うやつがいるだろう。だがな、最初はそうでもオレとマヤが仲良く想い合って努力すれば、必ず周りは変わる。マナーや貴族の風習みてぇなもんは習えばすぐに身につくだろうし、マヤのことだって、マヤ自身を知れば、誰も貴族かどうかなんてどうでもよくなるさ」
やけに自信たっぷりのレイの口調に、不安げに訊き返すマヤ。
「……そうでしょうか…?」
「あぁ、間違いねぇよ。なんてったってこのオレが惚れた女なんだから」