第27章 翔ぶ
プロポーズをされた、同じ人から二度も。
渇望の声がストレートに胸に響く。
“オレと結婚してくれ”
でも嬉しい気持ちよりも、どうやってこの目の前にいる美しい人を傷つけずに断ろうかと考えている。
そんな風に冷静に分析している自分自身が嫌になる。
……傷つけずに断るなんてことはありえないわ。お断りすること自体が、どうやっても傷つけてしまうのだから。
余計な気遣いなどせずに、正直な気持ちを伝えた方がよっぽど誠実なはず。
……だから私は、レイさんにきちんと向き合わなくっちゃ。
数秒でそこまで決めると、伏せていた目を上げる。
「レイさん…」
だがマヤの決意を実行に移すことはかなわなかった。
「待ってくれ」
レイがまるで予定していたかのように、マヤの返事をさえぎったからだ。
「返事は今はまだいい。オレだってわかってるんだ、一週間やそこらでは大して変わらねぇって」
「………」
「だが確かにこの一週間で、互いに少しは理解できた部分があるだろう?」
「それはそうですけど…」
“だからといって結婚しようと思えるほどではない” と言おうとしたが言えない。
少々焦ったレイの声が、またもや。
「そりゃすぐに結婚しようと思うくれぇには知っちゃいねぇかもしれねぇが、少なくとも一緒にいて合うか合わないかくれぇは判別できると思う。オレはそこが大事だと思うんだ」
「……どういうことですか?」
「一緒にいて顔を見て、話をして、メシを食って。そこでどうしても一緒にいたくねぇ、同じ空気を吸うのも嫌だっていうなら諦めるしかねぇが、そうじゃねぇなら結婚してから始まる感情もあるから。オレの親父とおふくろは貴族にありがちな政略結婚なんだが、今ではおしどり夫婦で有名だぜ?」
両親を思い浮かべているのか、レイの翡翠色の瞳はおだやかな優しい雰囲気になる。