第27章 翔ぶ
そんな想いを抱えてマヤと過ごした一週間だが、わずかに不満もあった。
マヤが一定の距離を保つのだ。
物理的にも、精神的にも… とでも言えばいいのだろうか。
別に手を握りたい訳でもないが、決してそのような近い距離にはならなかったし、強引に接近するのは避けたいところだ。
そして肉体の距離が縮まることがなければ、心の距離もいつまでたっても遠いままだ。
マヤはレイに対して、あくまでも “任務で接している” といった態度を崩さなかった。
丁寧で失礼のない態度。
笑顔を見せてはくれるが、恋人に見せるようなものでは決してない。
……だが愚かなオレはその笑顔ですら、拝めれば宝物だったんだけどな…。
そんな自虐の気持ちが芽生えていたレイであったが、今… マヤとの距離が近い。左手をそっと差し出すだけで、マヤの右手を握ることができる。
どこか線を引いていたマヤの態度が今は警戒心のかけらもないように思えるのは、この店の圧倒的な数のティーカップと、満ちあふれている紅茶の香りのおかげなのだろうか。
「……どうかしましたか?」
少し顔を赤くして自分の顔を見つめてきていたレイに気づいて、マヤは不思議そうに訊く。
「いや、あまりにもカップがたくさんあると思ってな…」
「そうですね。ずっと眺めてられる…。楽しいです」
幸せそうな笑顔を向けてくれるマヤ。
「そうだ! レイさん、気に入ったティーカップはありましたか? あの稲妻ですか?」
「あ? あぁ、そうだな」
「じゃあ稲妻カップを選んだらいいですよ?」
「………?」
意味がわからない顔をしているレイに、マヤは微笑む。
「ここはお気に入りのカップを選んだら、それに紅茶を淹れてくれるんです」
「へぇ…。それはなかなかしゃれてるな」
「はい、そうなんです。私は… せっかくレイさんといるんだし、これにしますね」
マヤが持ち上げたティーカップは、赤い薔薇と白い薔薇が交互に描かれたものだった。