第27章 翔ぶ
「………!」
自身の家紋である白い薔薇のカップをマヤが選んだことが嬉しくて、胸がいっぱいになる。
……なんてことはない、オレに気を遣って白薔薇を選んだだけのことだ。
でも、そんな些細なことがこんなにも嬉しい。
レイは照れ隠しに憎まれ口をきく。
「おいおい、白薔薇だけのカップじゃねぇとオレは嬉しくもなんともねぇけどな? 赤薔薇はアトラスの家紋なんだから」
「あぁ…、そうですよね。それは私もそう思うんですけど…」
マヤは言うべきかどうかを少しのあいだ迷ったが、言うことにした。
「白い薔薇だけが描かれたティーカップがないんですもの」
「………」
「赤い薔薇だけのは幾つかあるんですけど…。これとか、あれとか、あっ… あれも…!」
赤い薔薇のデザインのカップを次々と指さすマヤを即座に止める。
「もういい、もういい! クソッ、なんで薔薇といえば赤なんだよ、こういう売り物のは大体そうなってるよな」
「そうですね…。やっぱり世間的には、薔薇=赤のイメージなのかも。前にバルネフェルト家の家紋が白い薔薇だって話をしていたときにペトラも言ってました。“薔薇は赤が一番だと思う” って」
「ペトラの野郎…!」
「でもちゃんと “レイさんには悪いけど” と前置きをつけてましたよ?」
「そういう問題じゃねぇ」
すねた口調のレイを、マヤは可愛らしく感じて思わず笑ってしまった。
「ふふ」
「何がおかしいんだ」
「だってレイさん、子供みたい」
「………」
マヤに笑われても、その笑顔が “任務ではない” 心からのものだから。
レイは嬉しくて、幸せでたまらない。
「あぁ、そうだ。レイさん、知っていますか?」
「ん?」
「レイさんのことをみんなが “白薔薇王子” と呼んでいます」
「……なんだそれ」
「レイさんは髪も綺麗な銀髪だし、初日なんか全身真っ白で決めていたじゃないですか。それに薔薇の香りがするからだと思います」