第27章 翔ぶ
ミケの方にゆっくりとその恰幅の良い体を肩ごと向けると、エルヴィンは鷹揚に笑みを浮かべた。
「レイモンド卿が実際に兵舎にまで押しかけてくるとは少々想定外だったが、彼とマヤとのあいだに王都で何があったのかは、いずれ確実に我々の知ることになると睨んでいたからな…。まさしく今がそうだ。レイモンド卿が強引に事を進めた結果、マヤは王都でプロポーズをされていたことを白状せざるを得なくなった。そして…、あのときのお前の疑問は “リヴァイの様子が変だ” ということだったな?」
「そのとおり。リヴァイがマヤに妙によそよそしくてな。執務の補佐をするな、などと言い出すし…」
ミケはそこまで話すと、首をかしげてしまった。
「……いや待てよ…? レイモンド卿がマヤに好意を持っていることくらい俺にだって前からわかっていたんだ。その好意がプロポーズするまでとは、さすがに知らなかったがな…。それで結局、リヴァイがマヤに対して変な態度を取った理由は?」
「リヴァイを見ていたらわかるだろう? レイモンド卿がここで “マヤと過ごしたい” と最初に申し出たときの反応」
ミケはその瞬間にリヴァイの顔を見ていなかったので、わからない。
……いや、見ていたところであの無表情の裏にひそむ感情を、正確に読み取ることができたかどうか。
「どんな反応だったんだ?」
「リヴァイはレイモンド卿の言葉に対して、なんの驚きも怒りも示さなかった。そして次にマヤを呼んでの “約束どおりにオレを知ってもらうから一緒に過ごす” と言ったときの反応。あのときのレイモンド卿の言葉は明らかに、二人のあいだになんらかの交際にまつわる交渉があったことがうかがえた。それでもリヴァイは眉ひとつ動かさなかった。……知っていたのさ、リヴァイは」
「王都の夜には、すでに知っていたということか」
「あぁ。そしてマヤとレイモンド卿が出ていったあとだ。ハンジがリヴァイに “これでいいのか?” と訊いたときに見せた一瞬の苦悩の顔。あれはあのときに生まれた苦悩ではない。……もう幾日ものあいだ苦しんできた顔だ」