第27章 翔ぶ
「そうだね、それは…。任務中のこととはいえ、ある程度のプライバシーは尊重するつもりでいる。それにあのときに君が恥ずかしい思いをしてわざわざ報告してくれなくても、いずれこの問題は表に出てくるとわかっていたから… といったところかな」
エルヴィンはその何もかもを見透かしていると思しき碧い目を、きらりと光らせた。
「プライバシー… ですか…」
マヤはエルヴィンのその言葉から任務の辞退という、この団長室に朝からやってきた理由を思い出す。
「ならば団長、今回の任務は辞退させていただきたく…」
「それはならない」
さえぎったエルヴィンの思いがけなく厳しい、強い、反論を決して許さないひとこと。
「………」
“どうしてですか?” と反論したいができずに、軽く下くちびるを噛んでうつむくマヤにエルヴィンはさらに厳しくつけ加えた。
「任務を引き受けたくない理由が “レイモンド卿のプロポーズを断る” なら、君の辞退を承諾する訳にはいかない」
「………」
団長室の空気は、すっかり冷えてしまった。
マヤとエルヴィンのやり取りをずっと黙って聞いていたミケは、我慢できなくなって口出しした。
「おい、エルヴィン。それはないんじゃないか? 今のはまるで…」
ミケは、少し顔色を悪くしてまだうつむいているマヤの方をちらりと見てからつづけた。
「マヤにレイモンド卿と結婚しろと言っているように、俺には聞こえるが」
マヤではなくミケが反論してくることなど想定済みだという顔をして。
「そんなことは言っていない。もしレイモンド卿とマヤが結婚することになったとしても、それは私の命令とは関係なく二人の意思でそうなるだけだ」
「……だから…!」
ひとことも返せないでいるあいだに “レイモンド卿と結婚” なる直接的な言葉がぽんぽんと飛び交い、マヤは耐えきれずに叫んだ。
「私はもしプロポーズされてもOKしませんし、だからレイさんと結婚するなんて… ありえませんから!」
エルヴィンに恐れ多くも反論して、団長室に響いたマヤの声はめずらしく怒気を含んでいる。
頬も紅潮して、握りしめられたこぶしは今にも震えそうだった。