第27章 翔ぶ
エルドとグンタは風呂の話をしているし、タゾロはギータに明日の早朝自主訓練の予定コースを伝えている。
オルオとジョニーとダニエルは、あと少しで食べ終わりそうになっていて、ラストスパートをかけていた。
テーブルの様子をちらちらとうかがってから、ペトラは小声でマヤに話しかけた。
「……大丈夫?」
「うん。ありがとう」
「急いで食べてしまって!」
「えっ?」
「……いいから!」
何がなんだかわからないがペトラの強い語気に負けて、マヤはパンの残りを詰めこんだ。
「……食べ終わったね。よしっ、帰ろう!」
「えっ?」
驚くマヤの隣で、ペトラは突然立ち上がった。
「お疲れ様でした! マヤとお先に失礼しま~す!」
そう一方的に宣言すると、マヤの腕を掴んで立ち上がらせトレイを持つように急かして、追い立てるようにして食堂を出ていった。
「お疲れ~!」「お疲れ様です」
食堂に残った面々は口々にそう言って、ペトラとマヤを送り出した。
ナナバとニファは出ていく二人の後ろ姿を目で追いながら、周囲の男どもに聞こえない程度の声で。
「……逃げたな」
「逃げましたね」
「イケメン貴族がマヤをロックオンしてるのは間違いないみたいだね」
「え~、いいなぁ!」
「何がいいんだよ」
「だって貴族が見初めて溺愛してくるなんて、恋愛小説みたいじゃないですかぁ!」
小説好きのニファは目をハートにしている。
「溺愛って…。溺愛はまだしてないだろうし、そんなニファが読んでるような本みたいにうまくいくかな? ……それに大体マヤって兵長じゃなかったっけ? ほらデートしたって喜んでたし…」
ニファがあとを引き受ける。
「夜に食堂で一緒にごはんを食べてましたよね」
「うん。でもここ最近は全然見かけない。どうしたんだろう?」
「そう言われればそうですね…。気になる…!」
「まぁあれだな、明日からイケメン貴族がマヤをデートに連れ出して、そこから何が始まるか…。見てのお楽しみってところか」
「ですね~」
ナナバとニファはうなずき合うと、食事の残りに手をつけた。