第27章 翔ぶ
一方マヤとペトラは食堂を出て、一般兵士の女子の居室棟の廊下をずんずん進む。
すぐに一階の奥にある互いの部屋の前まで来た。
「マヤ、寄ってく?」
ペトラは扉を大きくひらくと、マヤを招き入れた。
「適当に座って」
「………」
マヤがいつも腰をかける場所… 戦死したアンネのベッドの上は、相も変わらずひどい混乱状態だ。
脱ぎ散らかした衣類が無秩序に放り出されている。その上にはもはや、この部屋の主のようになっている大きなうさぎの顔のクッション。そしてなぜか、ヘアブラシも転がっていた。
マヤは黙って衣類をそっと脇にずらして座った。
「ねぇ、なんでブラシがこんなところにあるの?」
「あぁぁ、うん…」
どうしてだかペトラは恥ずかしそうなそぶりで、ぎこちなく自身のベッドに腰を下ろした。
「……笑わないでよ?」
「うん」
「うさちゃんの毛を梳いてる」
「あぁ!」
マヤは思わず、主のように鎮座しているうさぎの顔のクッションを見た。
毛足の長いふわふわした仕上がりであるので、梳こうと思えば梳けないことはない。
「可愛がってるんだね! オルオのくれたうさちゃん」
「オルオのやつは関係ないからね! 髪をさわったりアレンジしたりするのが好きだから、ついつい目につくこのうさちゃんで、やってしまうだけだから!」
「うんうん、わかってるって!」
照れているペトラが可愛くて仕方がない。
……きっと毎晩うさちゃんに何か話しかけながら、ブラッシングしてあげてるんだろうなぁ。
いつも勝気で活発なペトラが、自室ではそんな愛らしい… まるでおままごとのようなことをしているのかと思うと、マヤはペトラに対する愛おしさがあふれてきてどうしようもない。
「ペトラ、大好きだよ!」
「急に何よ…」
照れからかペトラは少し突っぱねてみせたが、すぐに笑顔がこぼれ落ちた。
「……私だって、マヤのこと大好きだからね!」