第27章 翔ぶ
「……馬と一緒?」
呆気にとられているレイをよそに、マヤはアルテミスに話しかけている。
「アルテミス、今日もたてがみがふさふさで可愛いよ。目やにだって出ていないし、お鼻もいい感じにしっとりしているわね」
そう言って優しく顔を撫でてくれるマヤをうっとりした目で見つめながら、アルテミスは鼻を鳴らした。
ブブブブ、ブブブブ。
「アルテミス、この人はね… レイさんよ。王都からやってきた貴族なの」
ブルブルブル。
「レイさんはね、調査兵団の見学に来られたのよ。アルテミス、ご挨拶して」
ヒヒーン!
アルテミスはまっすぐな目をして、顔をレイの方に向けた。
馬と一緒にされたことのショックを引きずっていたレイだったが、ふと圧を感じて顔を上げてみれば、マヤとアルテミスが自身をじっと見ていた。
「あぁ…、よろしくな、アルテミス」
……先ほどの馬丁の爺さんに挨拶するのはわからねぇでもないが、なんで馬にまで…。
正直なところそんな風に思いながら、レイはアルテミスに声をかけた。
ブヒヒヒン! ブルブルブルッ!
「ふふ、良かったねアルテミス。レイさん、お返事してくれたね!」
ブブブブ、ブブブブ!
「アルテミスったら、くすぐったいよ」
もうレイをそっちのけでマヤとアルテミスは、いちゃいちゃしている。
……変な女。
無愛想な人類最強に、嗅ぐのが趣味のやたら背の高い朴念仁、大胆不敵で巨人研究に余念のない女。
調査兵団の連中は変人ばかりだ。
そのなかでマヤは随分とまともなんだなと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
……このオレが馬と同じ扱いだって?
そして今、オレなんか全く眼中になく馬と戯れていやがる。
マヤも十二分に変な女だ。
だがオレはそんなマヤのことを、ますます気に入ってしまった。
王都の贅沢な屋敷の中で、豪奢なドレスで着飾ってオレに色目を使ってくる貴族の女たちよりも、この田舎の調査兵団の厩舎の中で、訓練で汚れた兵服を着てオレの存在なんか忘れて馬と笑っているマヤの、なんと美しいことか。