第27章 翔ぶ
「あははは…」
笑おうなんて思ってもいないのに、レイは笑ってしまった。
……だって笑うしかねぇじゃないか。
社交界の白薔薇と崇められてきたこのオレが、馬の声と匂いが充満する厩舎の中で、オレのことなんか頭にてんでない女に見惚れて、動けずにいるなんて。
レイの声に、マヤが振り向いた。
「レイさんも楽しい? アルテミスが好きですか?」
「あぁ、楽しいさ。アルテミスはいい馬だな」
ブルルル! ブルッブルッ!
「そうなんです!」
愛馬を褒められて、その笑顔はこれ以上になく輝く。
「アルテミスも喜んでます。ね?」
ブルルル!
まるでアルテミスと会話しているようなマヤ。
「……さっきも思ったんだが…。馬と会話できるのか?」
「会話ができているかどうかはわからないですけど…、気持ちは絶対に通じ合っていると思います。アルテミスと初めて会ったときに、この子とこの先ずっと一緒にいるんだって強い絆みたいなものを感じたんです」
ブルッブルッ! ブルッブルッ!
「その感覚は気のせいではなくて、その後訓練でも壁外調査に出たときも、私とアルテミスは一心同体で戦ってきました。アルテミスには命も救ってもらっているんですよ」
ブルルル!
微笑み合うマヤとアルテミスのあいだには、そう言われてみれば確かに、信頼関係に基づく強い絆が見える。
……こいつらは本当に心が通っているんだな…。
レイは納得して温かい気持ちに包まれると同時に、アルテミスに嫉妬に近い感情を抱いた。
……馬に妬いてどうする、情けねぇ!
今からマヤと絆をつくっていけばいいじゃねぇか。
まずは一歩ずつ。
今日は格闘技の訓練を見て、兵舎を案内してもらった。
明日からは訓練見学後は、街へ連れ出そう。
うまいものを食って、互いの話をいっぱいするんだ。
そうすればきっと…!
レイはマヤとの未来を信じて、アルテミスとじゃれ合っているマヤをいつまでも見ていた。