第27章 翔ぶ
「お客さんかな?」
「はい。レイさん、こちらが調査兵団のすべての馬に精通しているヘングストさんです」
馬に精通していると紹介されて、ヘングストは誇らしげに胸を張った。
「ヘングストさん、こちらはレイモンド卿です。バルネフェルト公爵のご子息でいらっしゃいます」
「ほぅ! なるほどのぅ!」
なぜか納得したかのように何度も首を縦に振りながら、ヘングストはレイを見上げている。
「確かに聞いていたとおりの美男子じゃわい!」
「ちょっと、ヘングストさん!」
レイの顔をじっくりと見ながら美男子と叫ぶヘングストの態度に慌てるマヤ。
「へぇ… 爺さん、どうやらオレの噂でも聞いていたみたいだな?」
「そりゃあもう…。バルネフェルト公爵家といえば、わしのような下っ端の者でもよく知る名家中の名家じゃ。そしてそこの嫡男もなかなかの男前だとここにいるマヤからのぅ…。ほれ、このあいだの事件を起こした伯爵の舞踏会から帰ってきたあとに聞きましたわい」
「へぇ…。マヤが…」
レイはニヤニヤしながら、赤くなっているマヤの顔を覗きこむ。
「綺麗な髪と瞳だったと言っただけですから…!」
「それはどうも」
二人の様子を間近で見ながら、ヘングストは考えていた。
……これが例の貴族か…。
確かにすこぶる男前じゃ。
しかしあれじゃのぅ…。王都から女を追って辺境の地にやってくるなんぞ前代未聞じゃ。よくぞ公爵のお父上が許したもんじゃのぅ。
よっぽどの想いと覚悟。
……さて、マヤは逃げきれるのかのぅ…。
「ヘングストさん」
マヤの呼びかけで思考が中断される。
「……なんじゃ?」
「レイさんは見学に来られたのですが、アルテミスの馬房に入っても…?」
「あぁ、いいぞ。幹部の馬の厩舎は今、サムとフィルがヒィヒィ言いながら掃除してるでのぅ、邪魔しないでやってくれ。それ以外なら好きに見ていくがいい」
「わかりました。レイさん、行きましょう」
アルテミスの馬房がある厩舎の入り口に向かって一歩を踏み出すマヤ。
レイはそのあとをついて行く前に、ヘングストに片目をつぶってささやいた。
「爺さん、有意義な情報をありがとうな」