第27章 翔ぶ
「……やっと笑った」
レイはマヤの笑顔が嬉しくて。
「……え?」
「ずっと顔と態度がこわばっていたじゃねぇか…」
「それはレイさんが…!」
抗議しかけたマヤをレイはさえぎった。
「いや悪ぃのはオレなんだけどよ。すまなかった」
謝るレイの翡翠色の瞳は、真剣だった。それを間近で見たならば、いつまでも拒む訳にはいかない。
「もういいですけど…。恥ずかしかったんですからね… あんな大勢いる前で、このあいだのことを言うなんて。どんな顔をしたらいいかわからなかったです」
「そうか。てっきりオレはあの夜のことを、幹部の人間は知ってるのかと思ってな…。ほらマヤも言っていただろう? 舞踏会に参加するのは任務だと。だからそこで起こったことは全部、報告でもしてんのかと思ったんだよ」
「任務は任務ですけど…。あんなこと報告できる訳ないじゃないですか!」
キッとマヤにしては、精一杯鋭いまなざしをレイに向ける。
「レイさんがプ、プ…」
マヤの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
どうしても “プロポーズ” の単語が気恥ずかしくて言えない。その代わりに “プライベート” で会話をつづけた。
「とにかくプライベートな会話すぎて、報告できなかったんです。本当はレイさんの言うように報告すべきなんでしょうけど…」
「………」
レイはこう言いたいが、ぐっとこらえた。
“マヤが報告しなくてもオレがそのうち正式に、団長にマヤとの結婚を申しこむつもりだがな”
せっかくマヤの笑顔が戻ったんだ。
……今は言わない方がいい。
ちょうど厩舎が見えてきた。
「……あれだな?」
「はい、厩舎です。そしてあそこにいるのが…」
マヤのおだやかな視線の先には、ヘングストが干し草用の四本爪のピッチフォークを肩に担いで歩いている。すぐに歩いてくるマヤとレイに気づいて手を上げた。
「マヤ! よく来たのぅ」
ヘングストのそばまでやってきた二人を見て、日焼けした皺だらけの顔をほころばせる。