第27章 翔ぶ
訓練場に到着したが、ミケはまだ来ていない。
もうあと数分もすれば13時だ。
「よし、体を作っておこうか」
タゾロの言葉に皆がうなずき、五人は自主的に準備運動を始めた。
マヤは二の腕のストレッチに取りかかった。右手を上げてひじを曲げ、左手で右のひじを持ち、ぐいぐいと引っ張っていると。
少し離れたところにいたギータが、不思議そうな声を出した。
「……あれ? 誰だろ?」
訓練場の出入り口に背を向けていたマヤだったが、ギータのその声を聞いて振り向いた。
訓練場に向かって歩いてくる人影が二つ。
ひとりはミケ、その隣を歩いているのは。
すらっとした細身のスタイル、ミケよりは低いが引けを取らない背丈。午後の強い陽射しを受けてまばゆく光る銀髪が美しい。
「……どうしてここに?」
信じられないといった声が震えているのも仕方がない。
ミケ分隊長に案内されて訓練場に姿を現したのは、レイモンド・ファン・バルネフェルト、バルネフェルト次期公爵その人だから。
「マヤさん、知ってるんですか?」
「うん…」
ギータにレイのことを説明しようとしたが、ミケが集合をかけたので機会を失った。
適当に散らばって準備運動をしていたタゾロ、マヤ、ギータ、ジョニー、ダニエルの五人は速やかに集合した。
「こちらはレイモンド卿、バルネフェルト次期公爵だ。公爵家は我が調査兵の活動に前々より理解を示してくださっている。このたび、より一層深く我々の任務への見識を高めたいとの強い希望で王都より来られた次第だ。しばらくトロスト区に滞在され、我々の訓練を見学される」
ミケはそこまで説明すると、ちらりと隣に立つレイを見る。
それを受けてレイが爽やかな笑みを浮かべて、挨拶を始めた。
「今紹介にあずかったレイモンド・ファン・バルネフェルトだ。君たち調査兵の活躍には日頃より頭の下がる想いでいる。だが王都で想っているだけでは調査兵の実態を知ることはかなわないと、見学させてもらうことにした。邪魔をする気はない。いつもどおりの訓練の姿を見せてほしいのでよろしく頼む」
ミケがあとを引き受ける。
「……という訳だ。何も気負うことはない。いつもどおりにしろ」
「「「了解です!」」」
マヤたち班員五人は、びしっと敬礼をした。