第27章 翔ぶ
ミケの執務室の隣に位置するリヴァイの執務室では。
戻ってきたリヴァイが鬱々とした気分で椅子に座っている。
執務机には書類が、きちんと角を揃えて山積みになっている。
急遽予定になかった調整日を取って王都に出向いたつけがまわって、執務は見てのとおり山のように溜まっている。
……ハッ、何が “手伝いは必要ねぇ” だ…。
書類の山を睨みながら、おのれの行動を蔑む。
公爵邸で思いがけず耳にしてしまったマヤの言葉。
“兵長は上司ですから。それ以上でも以下でもありません”
あれからずっと考えた。
マヤがそういう風に俺のことを思っている以上は、“上司と部下” の関係を逸脱するような行動は控えるべきなのではないか。
……マヤがミケの執務を手伝うのはかまわねぇ。なぜならマヤにとってミケは直属の上司だ。副長候補として執務の補佐をすることは、これまでにも慣例としてある。
だが俺の場合は兵士長と一般兵士という意味では直属の上司ではあるが、分隊単位で考えれば違ってくる。俺のことを直属の上司といえるのはエルド、グンタ、オルオ、ペトラの四人だけだ。
あいつらを差し置いてマヤが執務を補佐していることが、本来はイレギュラーで…。
いくらエルヴィンが許可したとはいえ、望ましい状況ではない。それを俺の個人的な感情を満たすために今まで押し通してきた。
補佐を申し出たのはマヤの方からではあるが、あれは壁外調査での救出による一時的な感情の高まりだったんだろうな…。
だから執務の手伝いの礼だとヘルネへ連れていったあとは、いさぎよく解散すべきだった。
マヤは真面目で気持ちの優しいところがある。
俺が来るなと言わなければ、ずっといつまでも執務室に足を運びつづけるだろう。
そして俺はそれを特別な意味があると、愚かにも勘違いしつづけるところだった。
……マヤを解放してやらねぇとな…。