第26章 翡翠の誘惑
時は少しさかのぼる、場所はバルコニー貴賓席。
「いや~、愉快愉快! リヴァイ君はやはり、君たちから見ても異次元の強さなんだね?」
バルネフェルト公爵の機嫌はすこぶる良い。リヴァイ班の二人から、壁外調査でのリヴァイの規格外の強さを聞かされて笑いが止まらない。
「はい、それはもう…。兵長がいたら奇行種に襲われてもへっちゃらっす!」
オルオも上機嫌で答える。
なぜならば無論リヴァイ兵長の強さを讃えられることの喜びはあるが、それ以上に… 目の前の現実がオルオの食欲を刺激していた。
壁外調査の話をして、リヴァイ兵長の活躍を語れば語るほど、バルネフェルト公爵は給仕に命じるのだ。
「君の話は最高の酒の肴だ。もっと肉を、もっと酒を!」
かくしてテーブルの上は肉山脯林と化す。
「……ちょっとペトラ、飲みすぎだよ?」
「だってこの林檎酒、めちゃくちゃ美味しいんだもん。大丈夫! 軽いからそんな酔わないって!」
まわりに配慮してささやき声で注意したマヤだったが、少し酔っているペトラはおかまいなしで大声を出した。
「あっはっは。いいね、ペトラ君。そう、そのシードルはね… 宴を彩る色水みたいなものだよ。どんどん飲みたまえ」
「はい…!」
公爵の威勢のいい言葉を真に受けて、手に持っていたグラスを一気に飲み干すペトラ。
ペトラがそんなに酒に強くないとよく知っているマヤは心配になってくる。どうにかしてペトラの飲酒をやめさせようと隣に座っているオルオの方をうかがうが、オルオも… というよりオルオはさらに豪勢な食事と酒の魅力にずぶずぶにはまって顔を赤くしていた。
二人の友が心配で、自身はそんなには酒を飲まずにいるマヤの様子を、ちらちらと見守っていたリヴァイが “そろそろ潮時だ” と声をかけた。
「……おい、お前ら… 飲みすぎだ」
「兵長、大丈夫ですって!」
リヴァイの注意を聞かないところが、すでに酔っぱらっていることを物語っている。