第26章 翡翠の誘惑
「……あのしかめ面の兵士長? 一体どういう関係があるってんだ?」
不思議顔のアトラス。
「オレはな、マヤとペトラとオルオだけを招待したんだ」
「へ? あいつらだけ? エルヴィン団長もなし?」
「あぁ、オレは…」
「意味がわからん。っていうか兵士長、いるけど?」
アトラスはバルコニー貴賓席を、あごでしゃくった。
「マヤら三人だけに招待状を出したら、団長から憲兵団師団長を同行させることを条件にOKが来たんだ。それで…」
「……師団長はいないけど? どうなってるんだ?」
「あぁもう最後まで聞けよ!」
兵士長はいる、師団長はいないと二度までも話の途中で腰を折られて、レイは声を荒らげた。
「悪ぃ悪ぃ。……で?」
「最初から話すぞ? ……オレはマヤら三人に招待状を出した。団長と兵士長、その他マヤら以外の調査兵には来てもらいたくなかった」
何か言いたげなアトラスの顔を見て、素早くレイは補足した。
「あぁそうだよ、認めてやる。オレはマヤだけが来てくれれば、それで良かったんだ。だがマヤからは任務でなければ舞踏会には出ないと突っぱねられていたから仕方なく、調査兵団の団長あてに招待状を出した。マヤ一人だけというのもいかがわしいし、マヤとペトラにオルオ… グロブナー家の舞踏会に来ていた三人を招待という形で。すると憲兵団師団長を監督役として招待していただけるならと返信が来たから、それで承諾した。だから兵士長はここに来るはずがないんだ。それなのになんの前ぶれもなくふらっと現れたかと思ったら、親父に取り入ってあのざまだ!」
「親父さんはとにかく壁外調査の話が好きだもんな。だから兵士長の顔を見たら、レイとの約束が全部頭からすっ飛んでしまったって訳か」
レイは大きくうなずきながら、ため息をついた。
「あぁ、そのとおりだ。兵士長が自分を訪ねてきたと知るや否や、大喜びで舞踏会に出てくれと頼んだそうだ」