第26章 翡翠の誘惑
アトラスの考察はつづく。
レイはマヤとゆっくりと二人きりになるために、自分に色目を使って邪魔してくるであろう娘グループが出席できない日にちをあえて選んだ。
それは思惑どおりに成功し、今ここにいる若い娘は大人しいセザンヌとマリアンヌの姉妹だけ。彼女たちは、キャーキャーとレイを追いかけまわすことは決してないので、落ち着いてマヤと一緒にいられるはずだった。
それなのにマヤはバルコニー貴賓席で、バルネフェルト公爵の相手をずっとしている。
レイといえばホストらしくセザンヌとマリアンヌの姉妹を含めひととおりの女性たちと一曲ずつ踊ったが、肝心のマヤとは踊るどころか会話すらできずにいる。
そして情けないことに、悪態をつきながら恨めしそうにバルコニー貴賓席を睨みつけているのだ。
……なぜ親父さんはマヤを離さない?
その答えは簡単だ。
巨人や壁外調査の話を聞きたいから。
それならそもそもバネッサたちを遠ざけたところで、バルネフェルト公爵が舞踏会に顔を出した時点でこうなることは目に見えている。
……レイのマヤと二人きりになりたい計画の失敗原因は、どう考えても親父さんだ。
バルネフェルト公爵がいなければ、レイはマヤと踊って食事をして好きなだけ一緒にいられたはず。
これは…、バルネフェルト公爵だからこそ失敗したんだ。
なぜなら他の障害があったとしても、ホストのレイなら思いどおりに排除できたはず。だが唯一、バルネフェルト公爵だけがレイの思いどおりにならない存在だからだ。
「なぁ、ちょっと疑問なんだけどよ」
アトラスは頭の中で考えをまとめつつ、切り出した。
「親父さんが舞踏会に顔を出した時点で大失敗じゃねぇか?」
「は? なんの話だ?」
「だからさ、いくらお前がマヤと二人きりになりたくてバネッサたちが来れない日に舞踏会をひらいてもだな…。親父さんがいる限り、うまくいく訳ないじゃないか。だって親父さんは壁外調査の話を聞くのが好きだからな。調査兵がいたら、そりゃああやって離さないだろうよ」
そう言ってアトラスは、バルコニー貴賓席に視線を投げた。