第26章 翡翠の誘惑
このままでは一生、女に興味を持つことなんかないだろうし、親父さんの言うがまま政略結婚でもするんだろうなと思っていた。
そのレイが恋…。
……無二の親友として喜び、応援してやらなければならないよな!
アトラスは決して口には出さなかったが、レイのマヤへの恋心に気づいたその日から応援しようと決めていた。
レイの計画は着々と進んだ。
初めてのホストになって招待状を出し、意中の女のドレスを作って待ち構えた。
めでたくマヤが招待を受けてくれて、無事に屋敷に到着して舞踏会が始まって。
今ごろはマヤとあのバルコニー貴賓席で、しっぽりと愛でも語り明かしていたはずだっただろうに。
現実はこうやって腐れ縁の俺と広間の隅で、ふて腐れている。
一体どうしてこうなった?
アトラスは友の失敗の原因を探ろうと、広間を見渡した。
……別にこの舞踏会、おかしなところはないよな?
楽団も料理も超一流。執事も給仕もメイドも無論申し分がない。
招待客は…?
……あれ?
広間を見渡していたアトラスは違和感を持つ。
……女が少なくねぇか?
いや、女はいるにはいる。
でも結婚しているか、婚約している女ばかりだ。
若くて独身の、いわゆる恋人候補になりうる女が異様に少ない。
一応何人かいるにはいるが、皆が性質の大人しい娘ばかりだ。レイに憧れてはいるが遠巻きに眺めているだけの。
「なぁ… 若い女があんまりいないけどよ、わざとか?」
意識して若い女は、レイに色目を使うような女は招待しなかったのかと訊いてみる。
「あぁ。今夜はな、バネッサのところで夜会があるんだ」
「なんだって?」
「アトラス、お前んとこには招待状来なかったのか」
「……あぁ、来てないよ」
そう答えたアトラスの顔は、どこか淋しそうに見えた。