第26章 翡翠の誘惑
マヤたちの懸念をよそに、髪結いは調子づいて説明をつづけた。
「私は髪結いだけではなく、今日のようにジュエリーやハンドバッグ、靴にいたるまでトータルでのコーディネートも承っているんです。そのときにこの色相環を基準にコーディネートすると間違いがないんですよ」
「そうですか。それでその本を持ち歩いているんですね」
「ええ、まぁね。でもあれですよ、色相環はもちろん頭に全部入っていますよ。ただ基本を忘れないようにと肌身離さず持ち歩くようにしているんです」
「なるほど…」
それでなくても商売道具がたくさん入っている鞄は大きくて大変そうであるのに、わざわざ色相環の描かれた本まで持ち歩いていることに、マヤは “さすがプロの人は意識が違う” と感心した。
そしてしばらくカラフルなリングのイラストである色相環を眺めていたが、突如最初に抱いた違和感に気づいた。
「あの…」
マヤが恐る恐る、なぜか挙手をする。
鏡越しにマヤが右手を挙げているのを素早く見つけた髪結いは、教師のように応えた。
「はい、なんですか? マヤ様」
「色相環で反対側にある色が補色で、それが互いに引き立て合うからバランスが良くって…。だから私の髪と瞳が茶系だから、青系のこの宝石が合うんですよね?」
「そう! そのとおりです。のみこみがお早いですわ!」
髪結いは派手に両手を叩いて褒めてくる。
「……ありがとうございます…」
マヤは誉めそやされて次の言葉が言いにくいなと思いつつ。
「でもペトラも茶系の髪と瞳です…。なのに宝石はオレンジですけど…」
「あぁ! マヤ! それだよ!」
途端にペトラが大声を出した。
「なんかさっきから変だなって思って引っかかってたんだけど、理由がわからなくてさ。それだよ! 私も茶色だもん」