第26章 翡翠の誘惑
「貴族の舞踏会なんてきちんとしてそうな集まりでも、勝手に押しかけてくる人がいるなんてビックリだね。うちらのカラネス区ならわかるけどさ」
「だよな。ファインのジジィと同じような酔っぱらいが、貴族にもいるとは思いもしなかった」
ペトラとオルオは顔を見合わせて笑っている。じっと黙って聞いていたマヤが、ゆっくりと考えながら言う。
「でも…。舞踏会は招待状がないと入れないんじゃなかった…?」
「あぁ! そうだよね」
ペトラは大きな声を出してから、レイに訊いた。
「そこんとこ、どうなってるんですか?」
「マヤの言うとおりだ。招待してねぇやつは入れない。だがな、今日お前らは屋敷に入るのに招待状を見せたか?」
「「……いえ」」
マヤとペトラは首を振る。招待状を出すひまもなく、ウェルカム状態で招き入れてもらったからだ。
「だろ? 実際にはいちいち招待状を確かめたりせずに、ホスト側が招待した相手を把握しておくものだ。だからさっきも…、招待客のリストのチェックをしていた」
「レイさんが?」
そのような仕事は執事の領分かと、マヤは目を丸くした。
「あぁ、今日の夜会はオレがホストだ。最低限の仕事はしておくさ。それが招待客のチェックだ」
「……あの~…」
ペトラは言い出しにくそうに発言する。
「それって変ですよね?」
「何がだ」
若干レイはムッとしている。
「だって誰を招待してるかなんて、招待状を送ったときにわかってるでしょ?」
「あぁぁ…」
レイの声色には “なんだ、そんなことか” という意味が、ありありとこめられている。
「ごく少人数の集まり… たとえば個人的な茶会なんかだとそうなんだが…。何十人、ときには百人以上になる舞踏会だと、絶対に招待したいやつ、したくないやつだけ決めて、あとは適当に執事に任せる場合が多いんだよ」
「……そうなんだ」
「あぁ、そうだよ。だからさっき今日の出席者リストに目を通して、頭に入れてきた」
レイは右手で自身の白銀色の頭を、こんこんと軽く叩いてみせた。