第26章 翡翠の誘惑
「レイさん! 私、オレンジ色のドレスが着たかったの。知ってたんですか?」
ディオールのヘルネ支店で好きなドレスのデザインを選んだときに、色はオレンジを希望していたペトラ。
だがカインの色の指定により、その夢は叶えられなかった。
「ペトラに似合うと思った色がオレンジだっただけだが…」
目の前でペトラが嬉しそうに笑っている顔は、陽だまりに咲いている花のように輝いている。
「そうなんですか。着たかったし、私に似合うと思ってくれたなんて嬉しいです」
「デザインはディオールに任せたが、色はオレが決めた。気に入ったなら良かった」
「はい、ドンピシャですよ! あっ、じゃあマヤのこの綺麗な淡い水色もレイさんが?」
ペトラはマヤのドレスに目を向ける。
「もうすぐ髪結いがドレスと揃いの石を持ってここに来る。その石のイメージで二人のドレスの色を決めたんだ」
「宝石ですか?」
「あぁ」
ドレスだけではなく、髪のセットとアクセサリーまで手配してくれたと知って、マヤとペトラのテンションが上がる。
「宝石だって!」
「そんなの、つけたことないよ?」
「私もだよ。楽しみだね!」
「うん。ペトラのはオレンジ色で、私のが水色の宝石なんだよね。綺麗なんだろうなぁ…」
きゃあきゃあと二人が盛り上がっていると、早速ドアをノックする音がした。
「……来たんじゃねぇか?」
レイが笑う。紅茶のサービスを終えていたセバスチャンが、音もなく扉を開けにいくと。
顔を出した若い執事が困った様子で、何か耳打ちをした。
聞いた途端にハッとした顔をして、セバスチャンは。
「……私はこれにて失礼いたします」
と頭を下げるなり、若い執事とともに足早に出ていった。