第26章 翡翠の誘惑
「このマドレーヌ、美味しい~!」
先ほどからペトラの茶菓子をつまむ手が止まらない。
ここはバルネフェルト公爵邸の数多くある待合室のひとつ。
ミュージアムからレイの案内でこの待合室に直行したマヤ、ペトラ、そしてオルオの三人は、それぞれ思い思いの姿勢で豪華絢爛なソファの上でくつろいでいる。
クリスタルガラスの華奢なテーブルの上には、マドレーヌにガレット、カヌレ、クグロフ、バウムクーヘン、アップルパイにクッキーなど豪華な焼き菓子が勢揃いしていた。
「本当に美味しいね。このクッキー、バターの香りがすごい!」
マヤも口に入れた途端にバターの香りがいっぱいに広がって溶けていく、ほろほろとした食感のクッキーを気に入ったのか、もう五つ目だ。
「ペトラもマヤもそんなに食ったら、ドレスに食べかすが落ちるぞ?」
そう言いながらオルオも、大きなピースに切られたアップルパイをガツガツと食べている。
そう、オルオの言葉どおりにマヤとペトラは今、レイが用意したドレスを着ている。
この待合室に通された途端に、待ち構えていた大勢のメイドに囲まれて控えの間に連れていかれたかと思うと、あっという間にドレスに着替えさせられた。
控えの間から出てきたマヤとペトラを見て、オルオは顔を赤らめた。すぐにペトラに “馬子にも衣装だ” とお決まりの照れ隠しをぶつけていたが、内心では二人のドレス姿にドキッとさせられたのだ。
そのオルオの反応が物語っているように、二人のドレス姿は非常に華があって似合っていた。
ペトラのドレスは目の覚めるような鮮やかなオレンジ色だった。胸元にたくさんのフリルがひしめき合い、腰はきゅっと引きしまっている。そこからスカートが大きくふんわりとふくらんで、腰の細さを強調している伝統的なデザインだ。
一方マヤのドレスは、体のラインを強調する細めのシルエットではあるが胸元が大きく開いてはいないので、いやらしさはない。マヤの豊満な胸元と細い腰がシルエットではあらわになっているのに、美しく澄んだ水色のサテンの布地と細かく刺繍された薔薇が清楚な雰囲気をかもし出していた。