第26章 翡翠の誘惑
レイの矜持にふれた今、どのように話せばいいかもわからない。
マヤとペトラには、貴族の爵位がもたらす重責も、それに対する高いプライドも全く想像すらできない次元のものだ。
……どうしよう?
……どうする?
心が通じ合っているから、大概のことは目と目で話せる二人。
生半可な相槌を打って、レイの機嫌を損ねたくはない。
なんと言って返せばいいだろうと迷っていると、何も考えていない能天気なオルオの声が。
「そんなすげぇ金属をケーキに使うなんて、やっぱあのパパ野郎の一族は悪趣味のかたまりっすね!」
……オルオ!
マヤとペトラはお気楽なオルオの発言に焦った。
レイの真剣な瞳の色からして、ちゃかすような雰囲気ではないとペトラですら思ったからだ。
しかし。
「あっはっは! だろ? オルオ… お前のこと、ますます気に入ったぜ!」
レイが腹を抱えて笑っている。
「……普通に返せば良かったんだね」
「そうだね」
マヤとペトラはささやき合い、何事もなかったかのような顔をして会話に加わった。
「ケーキに入れて食べちゃうなんて、ミスリル銀を征服した気にでもなっていたのかしら」
「そうなんじゃない? パパ野郎が考えそうなことだわ」
「ペトラ、カインさんの味方をする訳ではないけれど…、ケーキにミスリル銀を使うって考えたのはカインさんじゃないと思うよ?」
「それもそっか!」
ペトラがぺろっと舌を出した。あはははと皆が笑って場が和む。その雰囲気に調子づいたペトラが、勢いに任せてレイに質問をつづける。
「……そのミスリル銀をつける特別な一族ってレイさんのところのバルネフェルト家と、さっき言ってた武家… ですか?」
「そうだ。ミスリル銀はもともと王家管轄の鉱山からしか採掘できなかったからな…。王家が認めたバルネフェルト家とアッカーマン家だけがその功績に応じて少しずつ賜ってきたものなんだ」
「……アッカーマン?」
初めて出てきた名前に、思わずマヤはその名をつぶやく。
「その武家の名だ。今は滅びし名家だがな…」
レイは歴史に想いを馳せ、少し遠い目をした。