第26章 翡翠の誘惑
「……そんなことして怒られないっすか?」
「馬鹿ね、レイさんを怒る人なんかいないのよ!」
ペトラに小突かれているオルオを目にしながら、レイはふっと笑った。
「いや、そうでもねぇさ。親父に怒られた」
「「「あっ…」」」
レイのような大人でも、貴族でも、親に怒られるという基本的なところは自分たちと一緒なんだと、マヤたち三人は思った。
「まぁ事情が事情だからな、小言で済んだが…」
「レイさんのおかげで伯爵の悪事を証明できたんだもの…。あんまり怒られなくて良かったですね」
マヤが言えば、ペトラも同意する。
「そうだね! でもなんか安心した、レイさんでも親に怒られるんだ」
「それ、私も思ったよ」
「俺も!」
盛り上がっている三人にレイが苦言を呈した。
「おいおい、オレはどういう位置づけなんだよ」
三人は顔を見合わせてうなずき合うと、代表してマヤが答えた。
「立派な貴族の息子さんだし、年齢も…。レイさん、二十歳以上ですよね…?」
「あぁ、23だが?」
「でしょう? ……そんな大人なのに親に怒られるんだなぁって」
「ハッ、いくつになっても親には怒られるもんじゃねぇか? そういうお前らは何歳なんだ?」
「私は17です」
「マヤはついこのあいだ誕生日だったもんね。私とオルオは16ですよ」
「……へぇ…。まだまだひよっこだな」
軽く憎まれ口を叩きながら、レイは内心で喜んでいた。思いがけずマヤの年齢を知れたからだ。
……17か…。
調査兵二年目と聞いていたので恐らくそのあたりの年齢とはわかってはいたが、はっきりと知るのは嬉しい。
もう少し深く知りたい。
「ついこのあいだ誕生日とは?」
「7月7日なんです」
「なるほど。出来たてほやほやの17歳なんだな」
「ええ、まぁ…」
レイとマヤのやり取りを聞いていたペトラがからかう。
「レイさん! その言い方、なんか親父くさいですよ」
「親父はやめろよ」
「えへへ」
屈託なく笑っているペトラを見ながら、マヤとオルオはささやき合う。
「あいつ、レイさんにも容赦ねぇな」
「ふふ、そうだね。ペトラらしくていいんじゃない?」
「それもそうだな」
そうやって今度はオルオとマヤが笑い合うのだった。