第26章 翡翠の誘惑
「マヤ、あっち見にいこ!」
オルオに言いたいことだけ言うと、ペトラはマヤの手を取って金銀に光っている貴金属を集めたディスプレイケースへ近寄る。
金の延べ棒だったり鎖だったり。銀の腕輪だったりペンダントだったり。プラチナの指輪だったりネクタイピンだったり。
「キラキラだね」
「うん。さっき見てた宝石も輝いていたけど、こういうのも綺麗だね」
ペトラと二人で貴金属を眺めていたマヤは、ふと疑問が浮かんだ。すぐに口にしてみる。
「ねぇ、ちょっと思ったんだけど…。レイさんのお母さんは指輪をつけるときに、わざわざここに取りに来るのかな?」
「え~、それはないんじゃない? だってお屋敷からここまで馬車で来たじゃん」
「そうね、遠いよね…。でもメイドさんがいっぱいいたから、取ってきてもらうとか?」
マヤの案にペトラが乗る。
「あっ、それじゃない? 奥様のアクセサリーを取りに屋敷とミュージアムを行き来する専用の人がいるんだよ、きっと」
ペトラがそこまで話したときに、ちょうどレイが近づいてきた。
「レイさん、ちょっと訊きたいんですけど」
「なんだ」
「ここにある指輪とかネックレスとか…。身につけたいときは、いちいち取りに来るんですよね? 今マヤと言ってたんですけど、それを取りに来る専用のメイドさんとかいます?」
「想像力がたくましいな。そんな大層なメイドはいねぇよ。ここにあるものは全部鑑賞用だからな。実際に使うことなんかねぇし、そもそも持ち出し禁止だ」
「え? でもミスリル銀の短剣は持ち出してましたよね?」
マヤは思わず口を挟む。
「あぁぁ、あれはオレが勝手に持ち出した。いわば禁破りの特例さ」