第26章 翡翠の誘惑
……名前も知らない宝石たちだけど、こんなにも綺麗で…。まるで全世界の色と光を集めたみたい…。
そんな風に思いながら、まばたきすら忘れて宝石に惹きつけられていると。
「……気に入ったか?」
いつの間にかレイが隣に来ていた。
「……はい。こんなに綺麗な石は初めて見ます。それに…、宝石は指輪とかネックレスになるものとばかり思っていました。こうやって石そのものだけで飾られて、それも石ひとつひとつがこんなにも大きいなんて」
マヤの見ていたディスプレイケースには、宝石の裸石… いわゆるルースが飾られていた。鉱山から採掘された原石がカットされ研磨されただけのものだ。まだジュエリーには加工されていない石そのもの。
「各地で採れた石が集まってくるからな。めずらしいのも中にはある。石はそれだけでも綺麗だが、指輪とかになってもっと輝く…。ほらこっちに来てみろ」
レイに連れられて指輪ばかりのディスプレイケースへ。
「………!」
マヤは指輪たちの美しさに目をみはった。
それだけでも綺麗な宝石が美しい指輪の枠にはめられて、周囲を小さな石にかこまれて、その相乗効果で何倍も輝きが増している。
「綺麗ですね…」
「あぁ。宝石はルースでも充分に綺麗だが、こうやってその宝石がもっとも輝けるようにデザインされたジュエリーには、あらたな美しさが付加されるからな…」
「確かに指輪だと、もっと石が光り輝いて見えます」
マヤは魅入られたように指輪を眺めている。
「あっちは首飾りに耳飾りもある。好きなだけ見ろ」
レイはそう伝えてから、時計のディスプレイケースを見ているペトラとオルオのもとへ行く。
「オルオ、懐中時計が好きか?」
オルオが目を輝かせて真剣に眺めていたのは、ぜんまいの機械の構造が見えるようにスケルトンに作られている懐中時計だ。
「大人の男って感じでかっこいいっす。俺もこういうのをいつか持ちたい…」
「無理無理! オルオに似合うのは腹時計だよ!」
オルオの密かな憧れは、ペトラによって無残にも打ち砕かれた。