第26章 翡翠の誘惑
「うわぁ~! すごい!」
一番に歓声を上げたのはペトラだった。
マヤは “光の間” のまばゆいばかりの輝きに息をのみ、オルオは目をチカチカさせて立ち尽くしている。
隣接している “ドレスの間” よりは小ぢんまりとした空間。そこに陳列されたガラスケースから放出されている虹色の光であふれている。
ゆったりとした等間隔に配置されている宝飾ディスプレイケースは、家具調のものだ。磨きこまれた無垢のウォールナット材の台座を、優雅なラインの猫足が支えている。そしてその台座の上には、クリスタルガラスで作られた長方形のケースが乗っている。
家具調の宝飾ディスプレイケースの持つ雰囲気があまりにも優美で、そこに飾られている宝飾品や時計、貴金属が、どんなに高級で立派なものなのかが、そばに寄って覗きこんでみなくても理解できたくらいだ。
マヤたち三人は緊張して、ぎくしゃくとした動きでディスプレイケースに近づく。
夜間はライトアップされるであろう効果的な位置にランプが配置されてはいるが、今はまだ日の高い午後であるからして、ランプは消えている。
しかし窓から燦々と射しこんでいる陽の光が、まぶしくて目を細めてしまうほどにディスプレイケースを照らしている。そしてその光はケース内の貴石を反射して、虹色の矢となり拡散していた。
「……綺麗…」
マヤがもらした言葉は、たったひとことだったが、そうとしか目の前の貴石たちを言い表す術はない気がした。
明るく透きとおる石は多面体にカットされて、キラキラと光を反射している。
宝石に詳しくないマヤにもわかる。きっとダイヤモンドだ。
血のような深い赤はルビー、宇宙に浮かぶ星の青のサファイア、雨上がりの樹々の葉のしずくの緑はエメラルド。
それくらいしか石の名前はわからない。
だが覗きこんだディスプレイケースには、もっとたくさんの色彩を放つ石がならんでいた。
赤と一口に言っても、ピジョンブラッドと称されるルビーの持つ気品に満ちた深い赤以外にも、朝焼けのようなオレンジがかったものから、ピンクに近い薄いものまで千差万別。
その数えきれないほどの赤の石それぞれに、マヤの聞いたこともない名前がついているのだろう。