第26章 翡翠の誘惑
レイの言葉を聞いて、すぐにペトラは思った。
……なるほど~! だからレイさんは私とオルオは部屋に置き去りにして、マヤだけに見せていたのね。
本当は心の中だけではなく、声を大にして言いたい。
でもさっき、約束した。
“今はまだ言うな” という言葉に対して “了解です” と応えているのだ。
「祖父の例にならって親父もひいきの相手だけに見せていた。だからオレも…」
ペトラの意味ありげな視線を、何食わぬ顔でかわしながらレイは話をつづけた。
「お前ら三人に見せたって訳だ」
「ありがとうございます」
めずらしくも貴重な立体機動装置の試作品を見せてもらえたことに、マヤは素直に礼を言う。
オルオも “特別な相手” “ひいきの相手” が自分たち三人だと言われたことに気を良くしている。
「まぁ俺らはちょうど調査兵ですし? 見せるのにピッタリっすよね!」
「……そうだな。暇を持て余している貴族の輩が見学するよりは、よっぽど意義がある」
レイは、先ほどマヤが見せた “調査兵の覚悟と使命” を心に描いた。
……またひとつ、オレの知らないマヤを見つけた。
性急に呼び寄せた甲斐があった。
まだマヤのことは知らないことだらけだが、逢うごとにひとつ、ふたつと増やせばいい。
……楽しみで仕方がねぇ。
舞踏会はこれからだ。まだまだ時間はたっぷりある。
今夜はいくつ、マヤを発見できるだろう。
近い未来を期待するあまりレイは、ともすればその端正な顔がにやにやと崩れてしまいそうになる。
……おっといけねぇ。
ぐっと顔を引きしめると、じっと見つめてきているペトラの視線が気にかかる。
何もかもペトラには見透かされている気がした。
「さぁ、次へ行こうか」
三人をうながして隠し部屋を出ると、そのまま “戦の間” をあとにする。
三階へとつづく階段の真紅の絨毯を歩きながら、オルオの声が弾んで響く。
「“武器の間” すごかったよな!」
「……馬鹿。“戦の間” だよ!」
ペトラの声もまた、高い天井の階段ホールに響いた。