第26章 翡翠の誘惑
黙ってしまい、自身をその翡翠色の瞳で凝視してくるレイにマヤは気づく。
「あっ…! ごめんなさい。なんか熱くなっちゃいましたね、恥ずかしいです…」
今語ったような内容は、同じ調査兵なら深く共感できるだろうが、相手は壁外とは無縁も無縁、壁から一番奥の内地である王都で、巨人の恐怖とは関係なしに優雅に暮らす貴族。
そのような相手に熱く語ったところで… 致し方ないではないか。
マヤは急に恥ずかしくなって謝り、照れ隠しに頭をかいた。
その白く細い手首をレイは掴んだ。
「謝ることなんかねぇ。マヤは立派な兵士なんだな…。オレはそんな真剣に人類の未来なんか考えたことはなかった。恥ずかしいのはオレの方だ」
「……レイさん…」
「マヤ、やっぱりお前はオレの決めた…」
レイがそこまで口にしたとき。
「あれ~! 何この部屋?」
ペトラとオルオが入ってきた。
「おい、ペトラ! 見てみろよ、あれ立体機動装置じゃねぇか?」
「ほんとだ! ……でもちょっと感じが違うことない?」
「そう言われたら、どことなく不格好だよな」
二人は立体機動装置の試作品に早速気がついて、あれやこれやと騒いでいる。
レイはマヤを掴んでいた手をすっと離すと、二人に近づいた。
「ペトラ、オルオ。それは試作品なんだ」
「「えっ! 試作品?」」
驚いている二人にレイは、試作品の解説をざっとおこなう。
「……そのアンヘリ? アンヘル?って発明家のおかげなんですね。調査兵団が巨人を討伐できているのは」
ペトラが試作品をまじまじと見つめながら感想を述べる。オルオは試作品よりも、隠し部屋をきょろきょろと見渡して質問した。
「なんで試作品だけ、ここにあるっすか?」
「これは一般公開はしていないからな。普段ここは施錠されている」
レイはそこまで話すと、開け放たれた扉から見える “戦の間” に目をやる。
「向こうに並べられている武器は、武家の所有だった物も多い。淘汰されたときに双璧をなしていた公家であるうちが引き受けたと聞いている。だがこいつは…」
レイはちらりと試作品に目をやりながら。
「祖父のお気に入りだったらしくてな。特別な相手にだけ披露していたそうだ」