第26章 翡翠の誘惑
「幼馴染みを守るために…」
そして恐らくその想いが、ひいては人類を導く希望の光となる。
その連鎖にマヤは心を動かされる。そしてレイは説明をつづけた。
「ワイヤーの射出装置に高圧のガスを圧縮して注入されているボンベ…」
レイは試作品をぽんぽんと軽く叩きながら。
「そしてこの刃だ。試作品の段階ですでに完成形になっている…」
現在のブレードより太くて短い、決して完成形ではないとマヤが否定しようとするのをレイは制する。
「いや、わかっている… 短けぇよな。オレが言いたいのはこの折れスジのことだ」
「あぁぁ…」
「このスジのおかげで、巨人の肉をぶった切って刃がなまくらになっても問題ねぇんだろ?」
「ええ、そうです」
立体機動装置のブレードは強靭さとしなやかさの両方を兼ね備えた超硬質スチールでできている。その刃には特殊な製法で折れスジが入れられており、そのスジにある一定の負荷がかかったときには簡単に折れる仕組みになっているのだ。それによって手や柄を保護しているし、刃がなまくらになった場合は使用者の判断で折って捨てることが可能だ。
「“発明王” といわれるだけあるな」
「そうですね。ワイヤーを射出したり巻き取ったり、高圧のガスを噴射させて推進力を得るとか…。どうやって思いついたのかしら。天才だわ…」
レイがマヤの意見に同意しながらも補足する。
「だな、世紀の天才だ。そして努力家でもあるらしい。試行錯誤を重ねて黒金竹の加工にたどりつき、装置の小型化と軽量化に成功したんだからな」
「そうですね…。その英知の原動力は、幼馴染みへの想いだった。そしてその装置を今、私たちが手に取ることによって想いをつなげている…。胸に迫るものがあります」
「……想いをつなげる?」
「はい。アンヘルさんは幼馴染みを巨人から守るために装置を開発しました。大切な人を守るという想いは、今も昔も… そして未来も変わらない想いです。その想いを信じて私たちは戦っているし、志なかばで散った仲間の想いも引き受けて、つないでいく。それがいつか必ず人類の自由に、希望の未来に結びつくから…」
「………」
想いを熱く語るマヤの横顔と真摯な声に、レイは思わず惹きこまれてしまい無言になった。