第26章 翡翠の誘惑
「リヴァイ兵士長が…?」
「ええ、そうです」
「確かに強ぇとは聞いている。一人で一個旅団の戦力に匹敵する人類最強らしいな?」
リヴァイの二つ名である “人類最強” が、レイの口から出てきてマヤ、ペトラ、そしてオルオは勢いづく。
「そうなんです。兵長は間違いなく人類最強です」
とマヤが言えば、ペトラとオルオが説明を始める。
「巨人には奇行種という通常の動きとは違った変わり種がいるんです。それは次の行動が読めないから倒すのが難しい。一体でも奇行種がいれば多くの犠牲が出るんだけど、あるとき奇行種の群れに出くわしたんです」
「……確かにあれは群れだったよな、奇行種の。五体いやがった」
オルオの “五体” に大きくうなずきながら、ペトラはつづける。
「そう、五体だったわ。一体でも苦労する奇行種が五体も…! でもレイさん、兵長は一人でその奇行種の群れを討伐したんです!」
「一瞬だったよな!」
リヴァイ班の二人の熱弁に、レイも心を動かされる。
「……なるほど。奇行種ってぇのはよくわからんというか、オレたち貴族は奇行種どころか普通の巨人だって実際には見たことすらねぇんだし正直なところ…、そのすごさってぇのは実感が湧かねぇ。オレからしたらお前らだって、壁外で巨人と戦ってるってだけで十二分にすげぇけどな。そのすげぇお前らが言うんだからリヴァイ兵士長は人類最強なんだろうよ」
「「そうなんです!」」
マヤとペトラは声を合わせ、オルオはまるで自分が人類最強だと言われたかのように得意満面でいる。
「だがよ…。オレは兵士長が武家の一族だとは思わねぇ」
「私には兵長が武家の一族かどうかということはわかりません。ただ圧倒的な戦闘力を持つ人間なんて、兵長以外に考えられないわ」
マヤも引き下がらない。その瞳には、あたかもリヴァイの強さを否定されたかのような、怒りに近い感情が見える。