第26章 翡翠の誘惑
巨人に目の前で仲間の命を奪われてきたからこそ、そしてマヤ自身の命の火も消えるところだったからこそ、その瞳は真剣だった。
「一部の例外がありますが、基本的に調査兵は普通の人が訓練兵団で訓練してからの入団になります。能力の高い兵士もいるけれど…」
そこで言葉を切ると、リヴァイ班であるペトラとオルオに視線を一瞬投げる。
「みんな、普通の人が訓練を積んで兵士になっているだけで…。もしそんなすごい戦闘力の一族がいたら、今の状況とはまた違っていたのでは?」
「そうだよね!」
ペトラがいち早く同意した。
「でしょう? ペトラならわかってくれると思った」
「うん、わかるよ!」
マヤとペトラは手を取り合っている。
「それはだな…」
目の前で結束を固めている二人を刺激しないように、レイは慎重に言葉を選んでいる。
「盛り上がってるところ悪ぃが…。その武家の力ってぇのは対人間用であって、対巨人用ではないんじゃねぇか?」
レイの発言を受けてオルオが意見を述べる。
「最初は俺もマヤの言うとおりだと思ったけど、レイさんのが正解じゃね? いくら “圧倒的な戦闘力”、“唯一無二の能力” でも、それはあくまで人に対してなんだろうよ」
「そうかなぁ…」
納得しかねる様子でペトラがつぶやいている。それを見てオルオが言い放った言葉が、マヤとペトラを興奮させた。
「よく考えろよ。巨人相手に圧倒的な戦闘力を誇る人類なんているかよ」
「「………!」」
思わず顔を見合わせるマヤとペトラ。そして叫んだ。
「いるじゃない!」「いるね!」
ただ事ではない二人の様子を目の当たりにして、遅ればせながらオルオも気づいた。
「あぁぁっ!」
三人の調査兵の態度を興味深く見ていたレイだったが、我慢できなくなって訊いてきた。
「おい、一体なんなんだ?」
「対巨人用の力を持っている人はいます」
ペトラがそこまで言ってマヤにうなずくと、バトンタッチをした。
しっかりとうなずき返すと、マヤはレイの方に体を向ける。
「レイさん…。リヴァイ兵長がそうです」