第26章 翡翠の誘惑
「そうね。あのときの音…、ミスリル銀のぶつかる高い金属音が忘れられないわ」
マヤがため息まじりに話せば、オルオも。
「そう、それな! カッキィィィィィィィィィンってな!」
「そうそう。それで伯爵の剣が折れるときは鈍い音だった」
二人は盛り上がったが、ふとペトラが事件を思い出して辛いのではないかと心配になった。
だがそう思ってマヤとオルオが顔を見合わせた次の瞬間には、
「ほんと爽快だったよね。レイさんとこの短剣が伯爵をやっつけてさ!」
ペトラが痛快だといった声と表情で会話に加わってきた。
ほっと安心してマヤはレイに質問する。
「ここには、武器のすべてがあるんですね。バルネフェルト家の所有物が展示されているんでしょう? どうしてこんなに武器を集めたのですか?」
レイが答える前に、オルオが口を挟んだ。
「公爵の趣味なんじゃねぇの?」
「それも確かにあるが…」
レイが “戦の間” を見渡しながら、説明を始めた。
「王家に仕える一族があってな…。いわば武家と公家」
「「「武家と公家?」」」
何やら小難しい単語が出てきたと、三人は声を合わせる。
「あぁ。武の力で王家に仕えた一族と、文の力で仕えた一族のことさ」
「「「へぇ…」」」
「武家は圧倒的な戦闘力を誇ったらしい。その昔、フリッツ王家が覇権を握るときにはその唯一無二の能力で貢献したと伝えられている」
「なんかすげぇな!」
戦闘力やら、覇権やら…、かっこいいと感じたオルオがわくわくした顔で叫んだ。
一方マヤは、レイの発した言葉が気になっている。
「誇ったらしい… とか、伝えられている… とか…。なんだかその武家は今は存在しないみたいに聞こえるけど…」
「そうだ。フリッツ王が治世し平和になってからは武家は必要ねぇからな。淘汰されて今王都に武家はいねぇ」
レイが軽く “淘汰された” などと言ったが、マヤの疑念はますます深まる。
「レイさん…、それはおかしくないですか?」
「……何がだ」
「今こそ、その武家の “圧倒的な戦闘力”、“唯一無二の能力” で、巨人と戦うべきです。その一族が必要です。なのになぜ淘汰されるなんて? 絶対におかしいわ」