第26章 翡翠の誘惑
……レイさん、本気だったんだ。
グロブナー家で舞踏会に招待したらマヤの首根っこを掴んででも連れてこいと言われたときから…、そして実際に招待してきたのだから、マヤのことを気に入っているのはわかっていたけれど。
それが一体どこまでの好意なのかは掴めずにいた。
王都の貴族、それもその頂点に君臨する公爵家の嫡男。そのうえ目を奪われるほどの美しい銀髪、透明感のある翡翠の瞳の美男子が、どこまでの想いなのかなんて、全く想像もできない。
調査兵の女が、めずらしいだけなのかもしれない。
けれどもたった今… レイがペトラに見せた翡翠の瞳の奥の揺らめきは、マヤへの想いが遊びではないことを如実に示していた。
「……了解です」
“今はまだ言うな” という言葉に対してペトラがひとこと返事をすると、心底嬉しそうにレイは笑った。
「助かる。失敗したくねぇからな」
「失敗だなんて! レイさんには無縁っぽいですけどね」
「そうだといいんだけどな…」
レイは少し離れた後方で、何かオルオとおしゃべりをしながら歩いているマヤをちらりと見やる。
「結構手ごわいからな…、すげぇ鈍感だし? かたくなにクソ真面目だしよ」
「あはは。まぁ確かにマヤは、そういうところあるかも」
「……だろ?」
レイとペトラが同じ意見を共有して笑いながら歩いていると、次の部屋へ到着した。
「ここはお前らに、うってつけかもな」
「え? なんだろう?」
ペトラが分厚い扉の前で、あごに手を当てて考えていると。
「ん? この部屋がなんだって?」
オルオとマヤが追いついた。
「うちらにうってつけの部屋なんだって!」
「俺らに…?」
ペトラとオルオが首をひねりまくっているあいだに、マヤが正解を出した。
「武器じゃない? 私たちは兵士だもの」
「「そっか!」」
ペトラとオルオは互いの兵服を指さしながら叫んだ。