第26章 翡翠の誘惑
「あはは…。はい、そうなんです。ペトラとオルオは幼馴染みで、息が合っているのか合っていないのか…」
困り顔のマヤ。
「へぇ、幼馴染みか」
「ええ。幼馴染みだからか巨人の討伐でも連係プレーがすごいんですよ? だからリヴァイ班にも選ばれて」
「リヴァイ班? あぁ、あの兵士長の精鋭特別チームか」
「そうです。二人は私とは同期で… まだ二年目の調査兵なのに、リヴァイ班に入るなんて本当にすごいことなんです」
友達を想って誇らしげに胸を張るマヤを、レイは好ましく感じる。
「あの~、レイさん」
ペトラとの言い争いに一区切りをつけたオルオが話しかけてきた。
「さっきの弾き方… あれ、すごいっすね!」
「グリッサンドというんだが、あれをやっておけばそれなりに上手く見えるからな…、大したもんじゃねぇよ」
謙遜するレイの言葉に、ペトラが異議を唱えた。
「そんなことないですって! めっちゃかっこよくて、ピアニストみたいでした。ねぇ、マヤ?」
「うん、素敵だった」
「そうか」
ペトラとマヤに褒められてレイは照れくさいのか、ピアノ椅子から立ち上がると “音楽の間”を出ていこうとする。
「待ってくださいよ~!」
ペトラはすぐさま追いかけて隣にならんだ。そして遅れてついてくるマヤとオルオには聞こえないくらいの声で。
「どうしてあの曲だったんですか? ……シンデレラ」
ペトラは気づいていたのだ、曲名を答えたときのレイの意味ありげな表情に。
「それは…、マヤがシンデレラだからだ」
「……マヤが? どういう意味ですか?」
「グロブナー家でマヤが、お前のために裸足で駆けてっただろ?」
「あぁぁ…」
ペトラは思い出した。あの事件のときに部屋に飛びこんできてくれたマヤが裸足であったことと、パンプスを持っていたレイがひざまずいてマヤに履かせようとしていたことを。
「あのときから、マヤはオレのシンデレラさ」
さりげなく、そして恥ずかしげもなく気障なセリフを言いきったレイの顔を、ペトラはまじまじと見上げた。
「レイさん、それって…」
「ペトラ…」
レイは細くしなやかな人さし指を口に当てて、内緒のポーズを取った。
「言うなよ、今はまだ…」