第26章 翡翠の誘惑
自身に完璧なる称賛の目をして見つめてくるオルオに対して、レイは内心で思う。
……そうさ、お前は必要だから招待した。
オレがマヤといるあいだ、ペトラを一人にする訳にはいかねぇからな。
あのときカインの部屋に飛びこんだお前の “ペトラァァァァ!” の叫びは、今でも耳に残ってるぜ。
ペトラのそばにいるのはオルオ、お前がいいんじゃねぇかとオレは思う。
「レイ… さん」
レイと呼び捨てにしかけたが、いくら堅苦しいのはなしにしようと持ちかけられても相手は大貴族、年上、親しい訳ではない… ので、オルオはさん付けで呼びかけた。横に立つペトラがじろりと睨んだことも関係しているのかもしれない。
「俺…、本当に嬉しいっす。ペトラなんか俺が招待される訳がない、ご馳走を食うのはあきらめろ、上等のパンを土産に持って帰るからそれで我慢しろとか言ってたし」
「あはは、そいつはひでぇな。オルオ、たらふく好きなもんを食えばいいし、パンだっていくらでも持って帰ってもいい。好きにしろよ?」
「はい!」
もうオルオの目は “一生ついていきます、兄貴” みたいになっている。
「ちょっと! 田舎者みたいだから、目立たないように食べなさいよ!」
ペトラが苦言を呈したが、その内容にレイは大笑いをした。
「なんだよ、ペトラ。オルオが食うのはいいってことなのか?」
どうやら “こっそり食べろ” と命令したことが面白かったらしい。
「ええ… まぁ…。私だって美味しいものはたくさん食べたいし。でもあまりガツガツして貴族の人に後ろ指をさされるのは恥ずかしいから」
「そうか。ペトラも存分に食べろよ、ただし目立たねぇようにな」
そう言って楽しそうにレイはその美しい翡翠色の瞳を細めている。
「はぁい!」
ペトラは元気に返事をしたあとに、首をかしげて疑問を口にした。
「ところでレイさん。この屋敷はなんですか? ここで舞踏会をするの?」
「あぁ…。お前たちを呼んだのは、ここがミュージアムだからだ」
「「「ミュージアム?」」」
マヤたち三人は一斉に声を上げたが、すぐにマヤとペトラは手を取り合った。
「マヤ!」「ペトラ!」
二人の目は、きらきらと輝いている。
「「行きたかったミュージアムだね!」」