第26章 翡翠の誘惑
どうして王都に来ているの? なぜそのことを黙っていたのですか? と訊きたいのに、うまく言葉が出てこない。
……だってもう、答えは出ている。
さっき御者さんに言っていたもの…、“憲兵団本部に行く” って。
でも疑問は尽きない。
憲兵団本部ってことは任務? ならどうして私服なの?
知りたい、でもそんなこと… ただの一兵士が上官に訊いていいこと?
ぐるぐると頭の中で言葉が渦巻いて、それを形にできなくて黙ってしまっているマヤに、リヴァイは重ねて訊いてきた。
「マヤ、どうした?」
……もう、なんでもいいや… 訊く!
マヤはそう決めて口をひらきかけたが、それより先にペトラの大声が届いた。
「マヤ~! 何してんの? 早くおいでよ!」
振り向けば、ペトラたちはもうかなり離れていて大きく手を振っている。
「今行くわ!」
急いでリヴァイの方へ向き直る。
「兵長、あの…!」
「あいつらを待たせるな。もう行け」
……そんな…!
まだ何も話せていないのに!
ぎゅっと目を閉じたマヤの頬が紅潮する。
そんなマヤの耳元に、リヴァイはすっと顔を寄せるとささやいた。
「……話なら、あとで聞いてやるから…」
………!?
耳のそばで急にささやかれた低い声に驚いて、琥珀色の大きな瞳が見開かれる。
「さぁ、行くんだ」
その声には、もう何も言わせない強い響き。
「了解です」
マヤは右のこぶしを左胸に当て敬礼すると、くるりと背を向けて走り去った。
……あとで聞くってどういう意味だろう? 兵舎に帰ってから…?
頭の中は依然としてわからないことだらけだったが、とりあえずは馬車へ!
ペトラたちに追いつき、バルネフェルト家の馬車へ乗りこんだ。