第26章 翡翠の誘惑
ボーーーッ! ボーーーッ!
「……んん」
遠くで汽笛が鳴っている… 気がする。
静かだ。
ずっと心地良く眠りを支えていた振動が止まっている。
「………!」
がばっとマヤは突っ伏していたテーブルから顔を上げた。
船窓からの景色は、王都の船着場になっている。
「着いてる!」
慌ててベッドで眠っている二人を揺り起こす。
「ペトラ! オルオ! 起きて!」
「う~ん…」「もうちょっと寝かせろよ…」
なかなか起きない二人を文字どおり叩き起こした。
「王都に着いたの! 起きて!!!」
「え?」「マジ?」
二人同時にやっと起床して、船窓からの景色に驚いている。
「やべ! 下船しないとな!」
大急ぎで船室を飛び出した三人は、もう誰もいない船内を走って甲板に出た。
「うちらが最後みたいだよ!」
先頭を走っていたペトラが叫ぶ。
「ご乗船、ありがとうございました」
タラップの横で、降りる乗客に頭を下げているクルー。
ペトラ、オルオと駆け抜けて、最後を走っていたマヤは一瞬立ち止まった。
「……ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げて礼を述べタラップを駆け下りていくマヤの背に、クルーも深々と頭を下げた。
「またのご利用をお待ちしております!」
船着場は下船した乗客と、迎えに来ている人々でごった返している。
「レイさんのお迎えはどこかな? マヤ、何か聞いてる? 目印とか」
「ううん、聞いてない」
前回のグロブナー伯爵の招待のときは、下船するなり大きな六人乗りの辻馬車に乗りこんだ。あの辻馬車は伯爵がよこしたものなのか、エルヴィン団長が拾ったものなのか三人は知らない。
「あっ!」
オルオが少し離れた場所を指さした。
「あそこに馬車がいっぱい待ってるぞ。あれのどれかに乗って、公爵の屋敷へって言えば連れてってくれるんじゃね?」
「そうね、行ってみようか」
三人が歩き出したとき。
「おい、お前ら。なかなか出てこなかったじゃねぇか」
聞き覚えのある低い声。
「「「兵長!」」」
マヤ、ペトラ、オルオの三人は振り向きざまに叫んだ。