第26章 翡翠の誘惑
「オルオ、オルオ!」
今度はオルオを激しく揺さぶるマヤ。
「……なんだよ、寝かせてくれよ…」
文句を言いつつも、なんとか起きてくれた。
「オルオ、ペトラが寝ちゃったの。部屋に連れて帰るの、手伝って」
ペトラのこととなると、オルオは眠い目をこすりながらも立ち上がる。
「……ったく、しょうがねぇな!」
「ちょっと待ってて! 食器、片づけてくるから」
マヤは急いで三人分の食器を返却カウンターに持っていく。
戻ると、オルオはもうペトラの肩を支えて歩き出していた。
マヤも反対側を支える。
そうして船室にたどりついて、ペトラをベッドに寝かせるなりオルオも、もう一つのベッド… すなわちマヤのベッドにごろんと横になってしまったのだ。
「ちょっとオルオ! 自分の部屋で寝てよ」
レイモンド卿はマヤとペトラに一室、そしてオルオにも一室を用意してくれているのだ。
「すまん、もう眠くてよ…。ここで… 寝る…」
もともと眠かったのと、ペトラのためと無理をしてカフェから船室まで運んできたのが相当こたえたのか、一瞬で眠りに落ちてしまった。
代わりにオルオの部屋に行ってもいいのだが、一人でそれも淋しいし、別に眠い訳でもない。
マヤはすーすー、ぐーぐーと気持ち良さそうに眠っているペトラとオルオの寝顔を見ながら、一緒の部屋にいることを選んだ。
そうして船窓のところに置いてある椅子に座って景色を眺めたり、ベッドの方を見ては二人の友達の寝息に微笑ましい気持ちになったりしていたが。
「……ふわぁ…」
どうやらマヤにも遅れて眠気がやってきたらしい。うとうととし始めたマヤ。
はっと気づいて、独り言を。
「……船の中で船を漕いじゃった…」
急に襲ってきた眠気につい、椅子に座ったまま船を漕いでしまったのだ。
「あはっ…、面白くなぁい…」
誰も聞いていないのに一人で笑ったマヤは、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまった。