第26章 翡翠の誘惑
それから時が過ぎること、一時間ほど。
マヤはレイモンド卿があらかじめ用意してくれていた一等船室の中で、ひとり窓から景色を眺めている。
部屋を振り返れば、二つあるベッドにはペトラとオルオが熟睡している。
……もう、オルオったら…!
自身のベッドになるはずの場所でいびきをかいているオルオを、あきらめた気持ちで見つめる。
なぜ、このような状況におちいったのか。
カフェでサンドイッチをつまみながらリヴァイ兵長が現れるのを待っていたのだが、一向に姿は見えず。
そのうちペトラとオルオが、ふわぁ~っと大きなあくびをし始めた。
美味しいサンドイッチと紅茶でほどよく腹がいっぱいになったところへ、船の一定の振動が眠気を誘うらしい。
今にもテーブルに突っ伏して寝てしまいそうなペトラを目にして、慌てて肩を揺さぶる。
「ちょっと、ペトラ。兵長が来るまで待つんでしょ? 起きて!」
「……う~ん、そうだね」
肩を揺さぶれば一瞬は、その薄い茶色のくりくりとした大きな目を開けるペトラなのだが、すぐにうとうとしてしまう。
「……やべ、ペトラ見てたら俺も超眠いわ…」
「オルオまで!」
ペトラが、途切れ途切れに。
「マヤ、ごめん。生理現象… 無理…。腹の皮… 張れば… 目の皮…たるむ…」
「え? 何?」
「おじいちゃんが言ってた…」
どうやらペトラのことわざ好きの祖父の言葉らしい。状況から察するに満腹になったら眠くなるという意味だろう。
とうとうペトラは重力に負けてテーブルに突っ伏す。
「マヤ…、兵長が来たら… あとは… よろ… しく」
「駄目よ、こんなところで寝ちゃ! ペトラ、起きて!」
もういくら揺さぶっても、むにゃむにゃと何か声を漏らすだけで全く起きる気配はなくなった。
「オルオ、どうしよう…って! やだ、オルオまで寝ないで!」
オルオを見れば、オルオも突っ伏している。