第26章 翡翠の誘惑
「なぁペトラ、マヤ。なんで兵長がこの船に乗ってるんだ?」
オルオが全くどうにも訳がわからないといった表情で、顔を寄せてきた。
ここは王都行きの連絡船にあるカフェ。一番奥まった場所にある一つのテーブルに、三人は身を寄せ合うようにして座っている。
エルヴィン団長がレイモンド卿の招待に正式に返答して、それに対しての返信が調査兵団に到着したことにより、晴れてマヤ、ペトラ、オルオの三人の舞踏会出席が決定した。一泊二日の日程だ。
数日前に三人は団長室に呼び出された。
そこで三人一緒にレイモンド卿に舞踏会に招待されたこと、一泊二日であること、団長と兵長は今回は同行しないが、王都では憲兵団師団長のナイル・ドークが監督役として屋敷に来ることを聞かされたのだ。
「ほんとにどうなってんの? マヤ、兵長から聞いてないの?」
「うん…、聞いてないわ」
「嘘! 昨日だってその前の日だって兵長と一緒にいたじゃん。知らないなんてことある?」
ペトラに詰め寄られても何も知らない。
「本当に何も知らないの…」
最初は同じ船にリヴァイ兵長も乗っていると知って驚いてばかりのマヤだったが、予定を聞かされていなかったと実感すると段々と悲しくなってきた。
……どうして兵長は何も教えてくれなかったのかしら…。
ううん、ミケ分隊長だってそうだわ。
きっと兵長が王都に同行することを知っていたはず。
なのに…。
マヤは団長室で王都行きを任命されてから、これまでの日々をざっと思い返してみる。
前回のグロブナー伯爵の招待のときとは違って、ドレスの仕立てはなかったから、ほとんどいつも通りだった。
午前と午後の第一部の時間は訓練に励み、第二部の時間は分隊長の執務を手伝う。
「分隊長、また王都で舞踏会です…」
「はは、なんだか元気がないじゃないか」
「こんなすぐに招待されるとは思っていなかったので…。早くても来月かと…」
「そうか。でも来月だろうが今月だろうがいいじゃないか。ほら、前に言っただろう? くんたま目当てで行けばいいと」
マヤの気持ちを前向きにしようと、ミケは優しく伝える。