第26章 翡翠の誘惑
一方、リヴァイは。
ハンジの好奇心丸出しの声に追われて、自室に帰ってきた。
窓から花壇を見れば、ラドクリフがせっせと花の手入れをしている。
しゃがみこんで土をいじっているその姿は丸い。顔も丸いが体も丸い。そして声も人懐っこくて丸い。
……何もかも丸いな… あいつは。
リヴァイがそんなことを連想すれば、途端に丸い声が頭の中で再生された。
“青紫のキキョウの花言葉は “永遠の愛” だからじゃないか”
………。
リヴァイは顔を再び赤らめた。窓から離れてベッドに腰をかける。
頭から追い払おうとしても消えないラドクリフの言葉。
永遠の愛だからじゃないか、永遠の愛だからじゃないか、永遠の愛だからじゃないか…。
リフレインが止まらない。
「……愛の告白だと…?」
自分で自分の声に驚いて、頭を抱えこむ。
……あの花の持つ意味なんか知らなかったんだ。
愛の告白なんかした覚えはねぇ。そんなつもりはなかったんだ。
マヤは知っていたのか?
……キキョウの花言葉を。
リヴァイは眉間に皺を寄せて、あのとき… 7月7日マヤの誕生日に、あの場所… 荒馬と女で、紅茶専門店カサブランカで密かに買っておいたティーカップを渡した情景を思い返す。
包みを開けて桔梗のティーカップを手にしたマヤは、泣き出しそうな声で礼を言っていた。見つめてくる琥珀の瞳は涙がにじんできらきらしていた。
……感激して喜んでいたことに間違いはねぇが、それは俺が誕生日を知っていて、あのティーカップを贈ったことに喜んでいたのであって…。愛の告白とやらにではねぇ、決して。
冷静に思い返して、あの時点で桔梗のティーカップを贈ったことは、イコール愛の告白をした訳ではないと納得がいってほっと安堵の息をつく。
……いや、待てよ。
愛の告白だなんて直接的で口にするのも恥ずかしいパワーワードのせいで、照れくさくて慌ててしまったが…。
別に俺の気持ちとしては全く間違ってねぇ訳で。
逆にマヤに愛の告白だと受け取ってもらえた方が良かったんじゃねぇか…?
大体、あのレイモンド卿がマヤにちょっかいをかける気なのか、夜会に招待してくる始末。それも俺やエルヴィン抜きとは。
……クソがっ!