第26章 翡翠の誘惑
背後からかけられるラドクリフの大声。
リヴァイの背中には目がある。集中すれば背後の人物の気配、動向などまるで手に取るようにわかる。
確実にラドクリフは今、俺の一挙手一投足をはらはらと心配そうに見つめていると、リヴァイには感じられた。
……食堂には行けねぇな。
まぁ、今の気分で行けやしねぇが。
ラドクリフも見ていることだし、ここは素直に幹部棟に入るとするか。
階段を上りながら眉間に皺が寄る。
……執務室には、あいつらがまだいるかもな。
ミケのやたら圧迫感のある巨体と、ハンジのニヤニヤした薄ら笑いが目に浮かぶ。
「……チッ」
舌打ちをすると執務室のある二階を過ぎて、自身の居室のある三階を目指した。
すると。
「あれ~、リヴァイ! どこに行くんだい?」
リヴァイの執務室から出てきたハンジが追いかけてきた。
「……部屋だが」
「えぇぇ! 食堂には行かないのかい? ごはん、まだだろう? 一緒に行こうよ。そしてラドクリフと何を話していたか教えてくれないか」
「断る」
詮索好きなハンジとは、もうこれ以上つきあっていられないとばかりに、リヴァイは振り向きもせず三階へ上がると自室に飛びこんだ。
ばたんと響いた扉の音を階段で耳にしたハンジは、残念そうな顔をする。
「あぁぁ~、面白くないの!」
首を振りながらリヴァイの執務室に戻り、待っていたミケに声をかける。
「リヴァイは部屋に行っちゃったよ」
「そうか」
「うん。ミケ、食堂に行こうか」
「了解」
ようやく二人はリヴァイの執務室をあとにした。
「マヤに会いたくてわざわざ花壇にまで行ったのに、ラドクリフしかいなくて残念だったろうね? リヴァイは」
「だろうな」
「そんなリヴァイのことなどお構いなしに、ラドクリフは花の話でもしたんじゃないかなぁ?」
「……そんなところだろうな」
「今日のメニューはなんだい?」
ハンジの質問にミケは足を止めて、鼻をうごめかせる。
「……シチューだ」
「そっか、シチューか。ほんとミケの鼻は便利だよねぇ!」
ハンジの称賛にミケは少し嬉しそうににやりと笑うと、再び歩き始めた。
その後食堂に入ったハンジが “ミケ、シチューだ。当たったね!” と大喜びしたことは言うまでもない。