第26章 翡翠の誘惑
あごの尖った小さくて白いリヴァイの顔が、まるで足下で咲いている淡紅色の桔梗のようにうっすらと赤い。
顔を覆っている骨ばった指の白さが、染まった紅と対比になって際立っていた。
「リヴァイ…?」
顔を片手で覆ったまま問いかけに答えないリヴァイを、心配そうに見つめるラドクリフ。
「本当にどうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「……いや…」
リヴァイが否定しているというのに、お人好しのラドクリフは勝手に色々と解釈し始めた。
「無理するんじゃないぞ? 顔も赤いし、熱でもあるんじゃねぇか? そうだ! 大体エルヴィンが会議は終わりだって言ってんのに、終わりじゃないとか…、あのときから体調が悪かったんだろうよ」
「………」
まるで見当違いな解釈に、リヴァイは何も反応できない。
その無言が、ますますラドクリフの勘違いに拍車をかけた。
「いくら人類最強とはいえ風邪には勝てないもんな。7月といえども夜風は体に障るぞ? さぁ、もう帰った帰った!」
早くリヴァイを温かい部屋で寝かせてやりたいと想うあまり、しっしっとあたかも野良猫を追い払うような手つきをする。
体を心配している想いと言動と手つきが、かなり矛盾しているが、どうせこのままこの場に残ったところでリヴァイにとってろくなことはない。
体調が悪いのでないなら、なぜ顔を赤くしたのか説明する羽目におちいりそうだし、それは絶対に願い下げだ。
地下街育ちで幼いころに餓死しかけた以外は風邪ひとつ引いたことはないが。
……ここは大人しくラドクリフの勘違いにつきあっておくべきか。
「すまねぇな」
ひとことだけ残すと、そのままくるりとラドクリフに背を向け立ち去った。
「ちゃんと寝ろよ! 早く治せよ~!」