第26章 翡翠の誘惑
「それでな、面白い話があるんだ」
これまで花に興味なんかないと思われていたリヴァイが、自分と桔梗の話をしてくれている。
ラドクリフは嬉しさのあまり、少々興奮して声が上ずる。
「この淡紅色のキキョウはな、青紫色のと正反対みたいな花言葉でな…」
そこで意味ありげに言葉を止めてみる。
リヴァイが桔梗の花からラドクリフに目をやると、子熊が遊んでほしい、かまってほしいといった雰囲気の顔をしていた。
仕方なく先をうながしてみる。
「……それで?」
「実はな、“薄幸” なんだ。すごいだろ?」
……何がすごいか、よくわからねぇ…。
リヴァイは正直なところそう思ったが、当たり障りのない表情と声色で同意した。
「……あぁ」
「だろ! だろ!」
リヴァイの微妙な反応など全然気づいていないラドクリフは今や、得意の絶頂だ。
……あのリヴァイが、俺の花の話を真剣に聞いてくれている!
だからもっと聞いてもらおうと、桔梗のうんちく話をつづけた。
「でな、マヤにも言ったんだがリヴァイも知っておけ。俺の故郷では好きな女にはキキョウか薔薇の花や、花を描いたもんを贈るんだ。絵とかハンカチとかなんでもいいんだけどよ!」
「……キキョウの花、花を描いたもの…」
マヤに贈った桔梗の花が描かれた美しいティーカップが、リヴァイの心に浮かんでくる。
「そうだ、キキョウや薔薇のな。それが愛の告白になるんだからよ!」
「……は?」
「間違っても淡紅色のキキョウを贈っちゃ駄目だ。なんせ “薄幸” だからな。青紫色だぜ? 覚えておけよ!」
今、愛の告白と言ったか?
……青紫のキキョウを贈るのは、愛の告白なのか…?
リヴァイは半信半疑な気持ちで、ラドクリフに青紫の桔梗を贈る理由を訊く。
「……なぜだ?」
「なぜって青紫のキキョウの花言葉は “永遠の愛” だからじゃないか!」
……なんだと!?
リヴァイは思わず右手で顔を覆った。
「おい、どうした?」
リヴァイの様子がおかしいことに気づいたラドクリフが訊いてくる。
「リヴァイ、顔が赤いぞ?」