第26章 翡翠の誘惑
「……資金源…」
結局そこなんだと、マヤは思った。
調査兵団には避けては通れない壁外調査がある。それを遂行しつづけるためには莫大な資金が必要だ。
だが三兵団に割り当てられる資金はなぜか、調査兵団が一番少ないという皮肉な現実。
エルヴィン団長とリヴァイ兵長が王都に行って、貴族たちの話し相手になるのも資金集め。
……そして貴族が苦手なハンジさんはこう言っていたわ…。
“私は貴族とは反りが合わなくて到底無理だから王都行きは二人に任せて、違うやり方で貢献するつもりだ“
……そうか…。
違うやり方って、薬を調合して貴族に売ることだったのね…。
確か団長は、心当たりがないでもない… と仰っていたわ。きっとハンジさんの薬のことをご存知だったのね。
「貴族に需要のある薬とは…?」
そう訊きながらもマヤは、ニファが以前に言っていた怪しげな薬の数々が脳裏に浮かんでいた。
「笑い薬とか泣き薬といった感情を揺さぶるものから、養毛剤みたいな髪が薄くなってきた男性に人気のあるもの。それから…」
モブリットは少し口にするのをためらったが、思いきって言う。
「色恋沙汰に効果のあるものなんかを研究中なんだ。完成したものもあるし、まだ開発途中のものも…」
「あの、色恋沙汰に効果のある薬ってなんですか?」
色恋沙汰の薬はさらりと流したかったのにマヤが追求してきて、モブリットは返事に困る。
「うん…。その惚れ薬だったり興奮剤だったり… いわゆる媚薬のたぐいかな…」
「……媚薬… ですか…」
小説の中でしか聞いたことのない媚薬…。
マヤはニファが言っていた怪しげな薬の中に “キス魔薬” なんてものもあったことを思い出した。
「うん、まぁ… 暇で金を持て余している貴族にしか関係のないものだよ、媚薬なんて」
「……そうですよね」
確かに自身には全く関係のない世界のものだ、媚薬は… とマヤは同意して目を伏せた。