第26章 翡翠の誘惑
……マヤは前回の壁外調査で、分隊長の強引なやり口で捕獲班へ編入させられた。そして分隊長の暴走につきあわされて、生死をさまよった…。
調査兵をつづける以上、再び壁外調査には出なければならない。
皆そうしているし、マヤだけを特別扱いする気などないが…。
それでもまだ今は、巨人に襲われた死の恐怖はそう簡単には消し去れるものではないだろうし、捕獲班にはもう…。
モブリットはそう考えて、言葉に詰まってしまっていた。
だが。
今… 自分を見上げているマヤの瞳は、琥珀の炎で輝いている。
人類のために何かしたい、役に立ちたい、その純粋な熱意の炎。
……分隊長ならマヤのこのまっすぐな想いを受け止めるに違いない。
モブリットはひとつ大きくうなずくと、こう応えた。
「……ありがとう、マヤ。分隊長も喜ぶよ…。もちろん俺も嬉しい。一緒にやろう」
「はい…!」
モブリットに一緒にやろうと言われて、マヤは大きな声で返事をしたが…、すぐに。
「……それで?」
「……うん?」
唐突に “それで?” と訊かれても、モブリットには何のことやらわからない。
「それで…、ハンジさんがお風呂嫌いで…。なんでしたっけ、ハンジさんがまともな薬以外を開発し始めて…? ほら、お話のつづきですよ」
「あぁぁ…。そうだった、話がわき道にそれすぎたね…」
照れくさそうに頭をかいてからモブリットは、
「ええっと…、どこまで話したかな。そうだ、薬の開発か…」
ぶつぶつと独り言のように話の整理をしてから、ハンジへの想いを話し始めた。
「分隊長は薬の調合ができるから、最初は普通の薬を作ってくれていたんだ。熱冷ましや、痛み止め、湿布薬とかね。いつだったか俺が喉の調子が悪いと言えば、弟切草(おとぎりそう)を煎じたうがい薬を作ってくれたこともあった。材料がそんなにたくさんある訳ではないから、本当ごくごく少量で身近な人にだけ必要に応じて気まぐれに処方していたんだ」
あるひとことが、気にかかる。
「気まぐれ?」