第26章 翡翠の誘惑
「……そうですか…」
捕獲できた3m級の巨人、採取した生き血に月見草のオイルを滴下して蒸発を防いだハンジの英知。その証の入ったガラスの採血管を天に掲げ、人類の希望に一歩近づいたと雄叫びを上げるハンジ。
すべてが高揚する気持ちのまま今、目の前で繰り広げられている光景のごとく感じていたのに、一気に粉々に砕け散ってしまった。割れてしまったガラスの採血管のように。
「それは…、残念ですね…」
熱心に話を聞いていたマヤの心もまた、砕けてしまった。
「そうだね、さすがにショックが大きかったよ。捕獲したかと思った巨人は自分の手で倒さなければならなかったし、せっかく入手した生き血を失ってしまった。それ以来、機会があれば巨人の捕獲を試みてはいるが、まだ成功していない。一度成功しかけたことがあるだけに、気持ちは焦るばかりで捕獲対象外の奇行種を強引に生け捕ろうとしたこともあったな…。そのときはいわゆる “動の奇行種” だったからね…。ケイジの命が危なかった…」
「あぁ…、確か兵長が助けてくれたんですよね?」
「うん。兵長が駆けつけなければ、捻挫だけでは済まなかっただろうね。あれは本当にぎりぎりだったな…」
モブリットが遠い目をする。
「……そんな訳で対巨人新薬の研究は、まだ全然だ。でも熱意は冷めるどころか、ますます高まっているし、必ず生け捕りに成功して開発してみせるさ」
「そうですね、期待しています。モブリットさん、私…」
マヤは自分でも、こんなに強く、こんな想いが湧き上がるとは思ってもみなかった。
「巨人の捕獲作戦にまた参加します、いや、させてください!」
「………」
力強いマヤの言葉に、モブリットはとっさに返事ができなかった。