第26章 翡翠の誘惑
「……あれは分隊長が初めてまともな薬以外のしろものを開発し始めたときだった…」
マヤはすぐに反応する。
「まともな薬… 以外?」
「そう。分隊長の実家はゾエ薬種商といって、薬を調合して卸しているらしい。だから分隊長は簡単な薬… たとえば熱冷ましだとか咳止めなんかは調合できるんだ。その技術があるから、巨人の解明のためにも生け捕りにして、対巨人新薬を開発したいんだ」
「………!」
マヤは驚愕のショックで息をするのも忘れた。
ハンジの実家が薬屋だったという初めて聞く情報。
そして以前ニファから怪しげな薬を開発しているという話は聞かされていたが、それはあくまでも人間に対するもの… たとえば笑い薬に泣き薬、惚れ薬に興奮剤などである。
……対巨人新薬?
見たことも聞いたことも考えたこともない未知の発想。
「モブリットさん…、なんですか… その、対巨人新薬とは…」
やっと訊くことができた。声が少し震えているのが自分でもわかる。
「巨人の血は時間が経つと蒸発するだろう? だから生け捕りにした巨人から生き血を採取して研究したい。まずは成分を分析して我々人類に近いのか、遠いのか、同じなのか…。そして弱点があればそこから巨人にとって致命的な新薬を開発して武器に… そうだな、分隊長がちらと漏らしていたのは毒矢のようなもので攻撃するんだ。うなじではなく巨人の体のどこに刺さっても殺傷能力のある薬を塗った矢を」
「……なるほど。今のうなじの縦1メートル、横10センチだけの弱点では討伐できるのが立体機動装置を装着していてなおかつ、特殊な訓練をした者に限られてきますが、巨人のどこに命中させても効果のある武器があれば…、誰でも身を守れるわ…。すごい! すごいです、モブリットさん!」