第26章 翡翠の誘惑
マヤの言葉はつづく。
“……想うだけで充分だったのに。一緒にいる時間が増えていくと、もっともっと一緒にいたいって。好きって欲張りなんだ…”
そうだ、そのとおりだ。
俺も想うだけで満足だった。かたわらに立っているだけで、そばで働けるだけで、分隊長の役に立てるだけで、半夜白い月の輝きのもと想うだけで… 充分だったのに。
マヤ、俺も同じだ。
……好きって欲張り… だよな?
途端に、大きな馬に寄り添っている小柄な後輩に駆け寄って、俺も全く同じ気持ちなんだと伝えたくなる。
ずっと誰にも言えずにきたから。
こんなにも誰かに聞いてほしいと切望するときがくるなんて思ってもみなかった。
だが、いざ心情を正直に順を追って吐露していくと恥ずかしくてたまらない。
いよいよ分隊長を尊敬する先輩、信頼の絆で結ばれた仲間以外の目で見るきっかけのところにきて、もう。
心臓がドクドクうるさい。体が熱い。きっと顔が赤くなっている。
「……見ないでくれ…」
「はい?」
話すのが恥ずかしいと言ったきり黙っていたモブリットが、やっと口をひらいたかと思えば “見ないでくれ” と。
意味がわからず首をかしげながら、マヤがモブリットの顔をもう一度見上げれば。
先ほどよりもっと濃く赤くなった顔を、右手で隠している。
「……今… 俺、赤くなってるだろ? 見ないでくれ…」
「モブリットさん…」
……こんなモブリットさん、初めて見た…。
ハンジさんのことを好きだっていうのは知っていたけど、こんなにも表に感情が出ているところは初めて。
……モブリットさん今、すごく… 無防備だわ。